新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ルブ・アル・ハーリー砂漠

 日本ではあまり報道されていないが、シリアと並んでイエメンの内戦も悲惨な状況にあるらしい。南にアラビア海を臨む国イエメンでは、事実上サウジアラビアとイランの宗教対立からくる代理戦争が続いているのだ。言うまでもなく灼熱の砂漠がかなりの面積を占めているエリアで、イエメンとサウジアラビアの国境地帯「ルブ・アル・ハーリー砂漠」は、付近に住むベドウィンたちからも「虚無の地域」と呼ばれ人が生息できるところではない。

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 国境というがそもそもこんなところに国境などない、為政者が地図上に引いた線だけだ。しかし昔はこれほど苛酷な環境ではなく、文明も栄えたとの伝説もある。それが南アラビア最古の王朝「サバ王国」、いわゆる「シバの女王」の治めた地である。
 
 戦争・冒険小説の大家で「鷲は舞い降りた」などの著作のあるジャック・ヒギンスが、南アラビアを舞台に描いた活劇が本書(1994年)。物語は1939年春、ナチスドイツのヒトラー総統がポーランド侵攻を決意したところから始まる。ラインラント進駐やオーストリア併合など領土を拡大し続けてきたドイツだが、さすがにポーランドに手を出せば英仏は黙っていまい。そこで開戦劈頭に英国の出鼻をくじく作戦を考えろと、ドイツ情報機関の長カナリス提督はヒトラーに命じられる。
 
 そんな時飛び込んできたのが、シバの神殿をドイツの考古学者が見つけたというニュース。大きな柱と広い神殿への道が残されているという。カナリスの幕僚はここに臨時の航空基地を設けスエズ運河を空襲するプランを立てる。スエズ運河は英国の動脈ゆえ名案なのだが、問題はその攻撃機ルフトヴァッフェには南サウジからスエズまで飛べる軍用機がない。カナリスの幕僚は中古の米国製コンソリーテッド・カタリナ飛行艇を入手、これにスペイン義勇空軍のパイロットをのせて神殿に軍需品を運び始める。日本の二式大艇はもちろん97式大艇にも劣るカタリナだが、ヨーロッパ戦線では非常に有用だったことがわかる。
 
 しかしカナリスのこの作戦に思いがけない邪魔が入った。行方不明になったイギリスの考古学者を探してくれとその妻に頼まれたアメリカ人の冒険家ギャビン・ケインとその友人たちが介入してきたのだ。ドイツの捕虜となっている考古学者を探すケイン一行は、虚無の地域のならず者やドイツの放った刺客と戦いながらついに神殿に迫る。
 
 確かに面白い冒険譚なのだが、やや竜頭蛇尾の感じを持った。軍事的なコンフリクトは中盤までで、その後は考古学者を救出したものの女性2人をさらわれたケインたちが、ほとんどゴロツキと化したドイツのエージェントを灼熱の砂漠で追う話になってしまう。前半の仕掛けが面白すぎたので、勝手に想像を膨らませて期待した僕が悪かったのかもしれませんが。