新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

牧師親子が探る16年前の事件

 「背筋が凍る」サスペンスが得意の女流作家、ルース・レンデル。本書は彼女の初期の作品(1967年発表)で、長編第四作。デビュー作「薔薇の殺意」に続いて、田舎町の警官ウェクスフォード首席警部が登場する。彼は署長からアーチェリー牧師という人物から届いた手紙を渡される。内容は16年前にこの町で発生した殺人事件と犯人として処刑されたペインターという男について教えてほしいというものだった。ウェクスフォードはこの事件を担当し、ペインターを絞首刑にする一端を担った。

 

 アーチェリー牧師は、事件のことを聞く理由として息子チャールズの婚約者テリーサがペインターの娘であることを告げる。若い二人はオックスフォード大学で知り合い婚約したが、牧師の目から見てもこの優秀な娘の父親が残忍な殺人犯には思えないというのだ。

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 事件は小金持ちの老婦人が、納屋に住まわせていた使用人のペインターに斧で殺害され、隣家の少女エリザベスが死体を見つけたというもの。ペインターには俸給など処遇に腹を立て200ポンドの現金を奪った容疑がかけられた。直接証拠はなかったものの、状況証拠の積み重ねで有罪になり処刑されている。ウェクスフォードは、今でもペインターの犯行を信じていて、この「再捜査」にいい気分にはなれない。

 

 ペインターの妻はその後再婚、現在の夫との間に2人の子供も生まれテリーサを含む5人家族で暮らしている。彼女たちにとっても「再捜査」には複雑な思いだ。しかし牧師夫妻は被害者の老婦人の孫たちが1万ポンドもの遺産をどう受け取ったかや、エリザベス親子の行動などに疑いを持って素人捜査を進めていく。

 

 後年サスペンスもので名を売る作者だが、まだこのころは作風を手探りしていたようだ。イギリスの田舎町の美しい情景や、敬虔なクリスチャンである住人の考え方などが克明につづられているのが特徴的だ。ペインターという粗暴な男と非の打ちどころのないテリーサという娘のギャップが読者の中で広がっていって・・・。

 

 これはサイコ・サスペンスに近いミステリーだと思う。僕自身は好きなジャンルではないが、イギリス風のサスペンスってこういうものなのかも。勉強になりました。