新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

レディ・ヘレンの.25口径

 本書(1999年発表)も、ジャック・ヒギンズの「ショーン・ディロンもの」。英国首相の「私的軍隊」と言われる対テロ専門組織の3人、ファーガスン准将、バーンスタイン警視、元IRAのディロンが活躍するシリーズだ。英米の同盟関係もあって、ホワイトハウスの同様な組織<ベイスメント>(地下室の意味で実際にホワイトハウスの地下にオフィスがある)の長ジョンスンは、以前の作品からディロンたちと緊密な協力関係にある。

 

 本書ではディロンたちやジョンスンが、ホワイトハウスの高度な情報が過激派に流れていたことを知って共同戦線を張る。過激派はアイルランドに拠点を持ち、英米でのテロを当局の裏をかいて行っているらしい。浮かび上がったのは「エリンの息子たち」という組織。ニューヨークのアイルランド風パブで不定期に会合を開いていたのは、上院議員、労組の幹部、建設会社社長、ロンドンのギャング、パブの経営者。

 

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 彼らには正体不明の<コネクション>という人物が、ホワイトハウス情報を流してくる。彼らはこれをIRAの過激派ジャックに伝え、テロを企画させていたのだ。ところがこの組織の存在をディロンたちが知ったとき、すでに労組の幹部・建設会社社長・パブの経営者は.25口径のコルトで射殺されていた。ギャングもディロンの目の前で同じ銃で殺される。

 

 極めて小型のこの拳銃でも、ホローポイント弾を使っているので殺傷力は高い。実はIRA過激派に一人息子を殺された英国貴族ラング家の未亡人ヘレン・ラングが、復讐をしていたのだ。彼女は60歳を過ぎているが、ベトナム帰りの黒人運転手ヘドリーの助けを借りてターゲットを一人一人殺していった。そして残る上院議員がロンドンを訪れた機会に彼を狙うのだが、IRAのジャックと<コネクション>も復讐者の正体を掴もうとしていた。

 

 相変わらずカッコいいディロンたちだが、それを霞ませてしまうのがレディ・ヘレンとヘドリーの活躍。心臓病で薬とブッシュミルズでなんとか命を持たせながら復讐を誓うレディ・ヘレンと献身的に彼女を助けるヘドリー。最後はIRAを自宅におびき寄せて殺そうとさえする。

 

 「鷲は舞い降りた」以降連綿と続く作者のエスピオナージの中でも、面白さでは群を抜いていると思いました。これ以降の作品は未入手です。もっと読みたいのですが・・・。