新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

パウダー課長最後の挨拶

 マイクル・Z・リューインのパウダー警部補シリーズは3作、本書で最後になった。インディアナポリスの貧しい私立探偵アルバート・サムスンシリーズが有名だが、マニアの中には哀愁を漂わせるパウダー警部補ものの方が好きだと言う人もいる。

 
 サムスンものにもちょい役で登場するパウダー警部補は、中年の警官。離婚歴があり、現在は一人暮らし。「夜勤刑事」で主役として登場したときすでに50歳近く、本書では50歳代の後半で引退も口にし始めている。
 
 ずっと夜勤刑事を続けてきたパウダー警部補だが、第二作「刑事の誇り」では昼勤に戻り失踪人課の課長になった。とはいえ部下はキャロリー部長刑事だけ。彼女は優秀な警官だが、事件で銃弾を受け今は車いすに乗っている。第三作ではパウダー課長の奮闘により失踪人課の人員は増えているが、事件の方も増え続けている。本書も、複数の関係のない事件が並行して描かれる。

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 失踪したと言われているのに街中で目撃情報のある工員、パウダーの若いころに知りあいの家に間借りした不気味な男、昔殺した男の弟に雇われているヤクザなどいろいろな疑惑がパウダー課長を取り巻く。極めつけはインディアナポリスは他の街に比べて「障碍者の寿命が短い」という疑惑。
 
 これを言い出したのは警察のコンピュータ係の技官。今で言えば「サイバー課員」なのだろうが、1986年当時はメインフレームの時代。自らも障碍者のキャロリーは熱心にこの仮説を検討し「誰かがこの街で障碍者を殺しているのではないか」と考えるようになる。ただ統計値を目立つくらい押し下げるには、年間何千人も殺さなくてはいけない。とても一人二人の犯人でできることではない。
 
 パウダー警部補は前作「刑事の誇り」で、非行少年であった自らの息子を刑務所送りにしている。本書でも仮出所中の息子の行状には悩まされる。メインの事件というのがないので、リアルではあるのだがミステリーとしては分かりにくい印象である。根強い人気があったはずのリューインの作品ですが、最近は噂を聞くこともなくなり、平成になってからのベスト100からも名前が消えていました。ちょっと寂しいですね。