新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

中立国スウェーデン

 近年ロシア軍のバルト3国侵攻や、バルト海を渡ってスウェーデンへの侵略があるのではないかと噂されている。国内経済はマイナス成長だし、内政にもほころびが見られる。このようなロシアの危機は1980年代半ばにもあった。トム・クランシーの「レッド・オクトーバーを追え」もそのころ発表されたものだが、本書も同時期ソ連軍のスウェーデン侵攻を巡る軍事小説である。

 
 面白いのは、作者が「警察署長」でデビューしたスチュワート・ウッズであること。彼は寡作家で、1ダースほどの作品しか発表していない。初期の頃は、全く趣の違う作品を出していて、「警察署長」は重厚な歴史ドラマであり犯罪小説だった。一転本書は諜報ものであり、軍事スリラーでもある。
 
 ソ連の潜水艦乗りヘルダー中尉は、スペツナズを統率する大物マジョロフ大佐に見いだされ、ストックホルム沿岸にブイに見せかけた核爆弾を設置する極秘任務を成功させる。一方米国CIAのソ連担当課長キャサリンは、バルト海ソ連軍の活動が活発化し、ソ連教育機関スウェーデン語の授業が急増していることに気付く。
 
 マジョロフ大佐はラトビアの港町リエビアに、暗号名「MALIBU」という秘密基地を設けて、スウェーデン侵攻作戦の準備をしていた。すでに9,000名のスペツナズスウェーデンに潜入、侵攻軍は12万人を数える規模である。行政、軍事の主要拠点を奇襲で抑えた後、スウェーデン語を学んだ行政官を配置しソ連編入してしまう作戦である。スウェーデンNATOの一員ではなく、スイス同様の中立国だからこのような侵攻が成り立ちうるのだ。

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 CIAやスウェーデンにもマジョロフの協力者がいて、意見が通らないキャサリンはイタリア人のハッカー、エミリーオを「MALIBU」に潜入させて証拠をつかもうとする。エミリーオは当時の最新鋭機種であるIBM-PC/ATを用いて、情報をハッキングする。最後は、8インチフロッピーディスクに情報を入れてヨットで脱出するのである。
 
 インターネットもない時代のハッカー、エミリーオの立ち居振る舞いが面白い。コピーの速度が9,600bpsだからすぐできる、などとあるのには懐かしさを感じた。IBMのパソコンPC-ATが出てくるのだが、大体ATって何の略なのか、ほとんどの人は知らないだろう。(Advanced Technologyのことです) ひょっとすると最初のハッカー小説だったのかもしれません。