新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

戦車一両、敵中を行く

 冒険小説の雄ギャビン・ライアルは最初レギュラーの主人公を持たず単発ものを書いていたが、元SAS少佐ハリー・マクシムを主人公にしたシリーズものにも手を染めた。これらがなかなか面白い。マクシム少佐は妻のジェニファーをテロで失い、半ばヌケガラとなっているところを「ダウニング街10番地」にスカウトされる。

 

        f:id:nicky-akira:20190429092904p:plain

 
 本書の前に「影の護衛」から計3作発表され、1988年の本書は第4作にあたる。名にし負うイギリス一番の特殊部隊SASで戦闘能力も高く、実戦経験も豊富な彼としては、前3作では諜報戦や対テロ戦ばかりに投入され、ある意味無聊をかこっていたかもしれない。しかし今回は、ヨルダンの砂漠で戦車を駆って敵中突破を図ると言う、軍人らしい活躍をする。
 
 英国陸軍は次期主力戦車として「MBT90」を採用試験中だが、ヨルダンなどの他国に売り込むことを図って試作機を渡していた。開発直後で単価の高いうちは採用したくないのが陸軍の本音。他国が採用してくれて、量産により単価が下がってから買いたいわけだ。
 
 ところがヨルダン軍が採用試験中に同国でクーデターが起き、反乱軍の真っ只中にMBT90が取り残されてしまう。最新の軍事技術を敵性国家に渡さないように、これを破壊しなくてはならない。ヨルダン軍の試験担当将校はロンドンで殺されるが、マクシム少佐にMBT90の「隠れ家」の位置を伝えてから息絶えた。
 
 マクシム少佐は「隠れ家」の情報を持ってアカバ湾に飛んだが、現地の人手不足からMBT90の破壊作戦の指揮を執る羽目に。しかしMBT90を破壊する前に反乱軍地上部隊の攻撃を受け、MBT90の主砲で撃退するものの脱出用のヘリを失う。マクシム少佐は、MBT90の設計者、ヨルダン軍の軍曹、ヘリの観測手という寄せ集めのクルーで、反乱軍のチーフテン戦車やミサイル搭載のランドローバーと戦い、砂漠を抜ける逃避行を行うことになる。
 
 近代的な戦車の戦い方、動かし方、応急修理に加えて砂漠という環境の厳しさをヴィヴィッドに描いた傑作だと思う。マクシム少佐の負傷しながらの活躍も特筆。これで、買ってあるマクシム少佐のシリーズは終わりなのですが、もっと出ませんかね。読みたいです。