新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ジュラシックパーク、1912

 コナン・ドイルは自分を有名にしてくれたシャーロック・ホームズを、本当は好きではなかったようだ。一度はスイスの滝壺に落として殺したつもりだったが読者の熱望で生き返らせるしかなかった。それに比べると、登場作品は少ないものの、本書の主人公チャレンジャー教授には愛着があった。

 

 エキセントリックではあるが長身で端正な容姿のホームズに比べ、チャレンジャー教授は原始的で毛深い。実際本書では、ネアンデルタール人とおぼしき「猿人」に仲間と間違えられるほどだ。外観だけではなく教授は(ホームズよりも)エキセントリックで、学会などではケンカばかり。敵だらけである。専門は動物学らしいが、アマゾンの探険行では気象から化学まで、総合科学者としての知識を披露する。

 
 チャレンジャー教授は南米で瀕死の冒険家から何枚かのスケッチを受け取った。それには古代の生物とおぼしきものが書いてあった。アマゾン上流の隔絶した台地に「Lost World」があって古代の生物が生きていると主張する教授に、批判が相次ぐ。批判の先鋒サマリー教授と冒険家ロクストン卿、新人新聞記者の「わたし」ことマローン君の4人は、教授の説を確認するための冒険旅行に出発する。

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 全300ページのうち前半2/3は教授の奇矯な行動ばかりが目立ちマローン君の独白も冗長なのだが、「Lost World」である200m以上の絶壁上の台地に至るとぐんと面白くなる。台地の半分を支配している「猿人」は力は強いが知能は低く足は遅い。残りの半分はホモ・サピエンスである古代人(土人と訳語にある)が支配し、弓矢などの武器を使い大人しい恐竜(イグアノドン)を家畜兼食料にしている。
 
 猿人、古代人双方の脅威なのが古代生物。草食のステゴザウルスなどはいいのだが、空襲してくるプテラノドンティラノサウルスと思われる恐竜は猿人や古代人を捕食する。さらに台地中央の巨大な池にはプレシオサウルスらしき巨大なヤツがいる。
 
 恐竜時代、ネアンデルタール人の時代、ホモ・サピエンスの時代が混然とした世界に、たった4人だがライフルや散弾銃を持った近代人が加わってパワーバランスが崩れる。そこから後は、猿人・古代人戦争を中心に大活劇が繰り広げられる。
 
 コナン・ドイルはこういうものを書きたかったのだな、というのが読後の実感である。ホームズもので有名になって20年あまり、本書(1912年発表)のころには作家としての円熟期で、ワイルドで破天荒なチェレンジャー教授を思い切り活躍させている。あと何作かある教授もの、また探してみましょう。