新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

カーが好きだった江戸川乱歩

 本書は創元社が独自に編集したジョン・ディクスン・カー(別名カーター・ディクスン)の最後の短編集。長編はいくつか紹介しているが、作者は多くの短編や脚本も遺した。本書には、ラジオドラマ脚本2本、シャーロック・ホームズのパロディを含む4編の短編、ミステリー作家としての矜持を記したエッセイ2編が収められ、詳細な作品リストとカーの大ファンだった江戸川乱歩の有名な「カー問答」が収められている。

 

 長編だけでも80編(多くが邦訳された)ある作者だが、没後40年以上が経ち絶版となった作品が多い。僕も10歳代のころに読んだ多くの作品を、今は入手できないでいる。江戸川乱歩によればその特徴は、

 

・飛び切りの不可能興味、手品興味

・極端な怪奇趣味、オカルティズム

・ユーモア(というよりはファース)

 

        f:id:nicky-akira:20210826134719j:plain

 

 にある。ヴァン・ダインやクィーンが不可能犯罪を扱いながらも、リアルな手法で書いているところ、カーは絵空事の世界のように物語を展開する。短編ばかりだが全くリアリティのない世界にいたG・K・チェスタトンを思わせると乱歩は言う。ただチェスタトンは読者に対しては全くフェアではなかったが、ヴァン・ダインやクィーンのような手掛かりを読者にちゃんと与える「フェア・プレイ」を心がけている点はカーは立派だとある。

 

 乱歩は探偵小説の三要素として、出発点の不可思議性・中段のサスペンス・結末の意外性を挙げているが、これらを全部満たしているのがカーの真骨頂と評価している。乱歩は1952年までにカー(ディクスン名義含む)の長編を30作ばかり読んでいて、それらを4ランクに分類している。Aクラスとして挙げられたのが、

 

・帽子収集狂事件

・プレーグコートの殺人

・皇帝の嗅ぎ煙草入れ

・死者を起こす

・ユダの窓

・赤後家の殺人

 

 「密室講義」で有名な「三つの棺」や最大長編「アラビアンアイトの殺人」はBランクだった。乱歩はレギュラー探偵にも触れていて、初期の頃のフランス人アンリ・バンコランには高い評価を与えていない。大兵肥満のフェル博士(カー名義)とヘンリー卿(ディクスン名義)の2人には大きな相違点はなく、同一人物にしても良かったとも言っている。

 

 ここに挙げられた作品の半分くらいは、もう手に入りません。精々古書店巡りしていますけれどね。