新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「センパー、ファイ」が口癖

 あとがきの後の解説には、本書のようなものを「軽ハードボイルド」というのだとある。表紙のアニメも含めて、いかにも軽めの私立探偵ものだなという印象を与えている。シアトルを舞台に活躍する私立探偵ジェィグ・ロシターとその仲間たちの物語で、本書に続いて何作か発表されシリーズ化されていると解説にあるが日本語版が出版された気配はない。少なくとも日本では、ロシターものは「一発屋」で終わったようだ。

 

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 ロシターは、MOUSE(家ねずみ)ではなくRAT(どぶねずみ)の街シアトルの私立探偵。海兵隊あがりで、硫黄島で日本軍に撃たれて軽傷を負ったこともある。仲間も含めて海兵隊の合言葉「センパー・ファイ」を時々口にするタフガイだ。
 
 「え、硫黄島?」と思ったのは、本書の発表は2001年だったから。読み進んでいくうちに、本書が描いている時代が1947年であることがわかった。なるほど、これは「歴史もの」なのである。太平洋戦争直後のシアトル、航空機産業はあったのかもしれないがまだマイクロソフトもアマゾンもそこにはいない。黒人に対しての差別も根強いころで、本書の事件の背景にも人種差別問題がからんでくる。
 
 独り者のロシターが朝食をとっていると、賭け屋の大男が銃を持って乱入してきた。これを逆に射殺したロシターだったが、見知らぬ男が襲ってきた理由が分からず仲間と共に背景を探り始める。
 
 殴り合いや拳銃の腕だけではなく軽口も得意だというロシターと、探偵になりたくて仕方のない秘書ジェンキンス嬢とのやりとりはなかなか面白い。表紙の絵でロシターが持っているのはコルトガバメント1911(陸軍制式拳銃)だし、ニッケルメッキの38口径リボルバーデリンジャーや44口径マグナムに至るまで多様な拳銃が出てきて、作者は銃器マニアではないかとも思わせる。
 
 撃ちあいだけでなく、スウェーデン系の大男とのボクシング試合や、フランス風キックボクシングを得意とする特務警官との決闘など、ロシターのアクションシーンも盛りだくさんである。
 
 ことほどさように読者サービスは豊富なのだが、どうも上滑りの印象をぬぐえない。個々のアクションシーンの必然性が感じられないのだ。事件の真相がわかりボスキャラとの対決にしても、力任せ運任せの追及であって「もう少し考えろよ」と言いたくなった。「一発屋」で終わった理由が分かるような気がします。