新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

犯人探しではなく・・・

 普通のミステリーは、殺人のような重大事件があり、探偵役が登場して事件を調査し、最後に犯人(たち)を名指しないしは逮捕して終わる。Why、Howという謎もあるのだが、「WHO done it?」と言うのが主流。しかし本書(1946年発表)でデビューしたパトリシア・マガーは、犯人探しではない本格ミステリーを何作か書いた。

 

 すでに「目撃者を捜せ」や「探偵を探せ」を紹介しているが、本書では読者は「被害者」を探すことになる。第二次世界大戦中か、その直後の時代設定なので、徴兵されてアラスカあたりに駐屯している海兵隊員たちが探偵役である。

 

 戦闘をするわけではない彼らの興味は、故郷で何が起きているかということ。ピートはたまたま包み紙に使われていた新聞記事で、自分が勤めていた団体「家事改善協会」の総代表が副会長を殺して逮捕されたことを知る。しかし新聞が破れているため、被害者の名前が分からない。副会長やそのクラスの役員は10名ほどいるのだ。

 

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 ヒマを持て余しているピートの仲間たちは、これを「賭け事」にしようと考えた。この協会のことはピートしか知らないので、彼に状況を説明させ「被害者」を当てたものが賭け金を獲るというもの。合意ができた後、ピートは過去4年ほど勤めた職場のことを話し始める。

 

 「家事改善協会」は主婦の自由や権利を主張し、家事に縛られている彼女らを解放しようという目的を持っている。会員たる主婦からの会費のほか、ロビー活動に賛同してくれる個人・企業からの寄付金が多く財政的に豊かだ。しかし内実は、寄付金集めに手腕を発揮している総代表が座に執着している上に、次々と女性トラブルを起こす。役員同士の反目・愛憎も強く、自殺未遂や階段から突き落とす暴行事件までおきる。

 

 ピートが全ての記憶を語り終えた後、戦友たちは勝手な理屈を付けて「被害者」候補に賭け金を張る。その中で賭けを持ち出したジョーだけは、徹底した心理推理で「真被害者」を指名する。シチュエーションは奇をてらったものだが、推理については立派な「本格ミステリー」でした。