新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

壊れた家庭が重なり合って

 心理サスペンスの女王、ルース・レンデルの1984年の作品が本書。作者には本格ミステリーのウェクスフォード主任警部シリーズとノンシリーズがあり、ノンシリーズは「背筋も凍るサスペンス」が売り物。どちらかというとノンシリーズが彼女の作家としての地位を確立したと書評にある。

 

 本書は英国推理作家協会賞(多分シルバーダガー賞)を受賞した作品である。舞台はロンドンの一角、いわゆる下町で富裕な人は多くない。多くの子供が両親の離婚で片親だったり、シングルマザーの家庭で育っている。

 

 そこそこ売れている作家のベネットも、恋人とは結婚せずシングルマザーの道を選んだ。彼女の両親はスペインで暮らしているが、ある日母親もモプサがやってくる。彼女は精神障害がひどく、家庭内外で不和の種をまき散らす難物。モプサの世話(母親に怒ってはいけない・・・とベネットは独白し続ける)で苦しんでいた時、一人息子が病気にかかり急逝してしまう。

 

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 呆然としてしばらく入院していたベネットが帰宅すると、モプサが男の子を世話していた。死んだ孫の代わりに、どこかから誘拐してきたらしい。驚くベネットだが、その子に虐待の傷跡が多いことに気付く。

 

 そのこの母親キャロルは、バツイチの28歳。身持ちの悪い女で、3人の子供がいるが2人は施設に預け、20歳の無学な大男バリーと同棲している。バリーは結婚を求めるのだが、キャロルは承知しない。機嫌の悪いバリーは残った幼児を虐待していたが、その子がいなくなってしまったわけだ。

 

 バリーがキャロルにその子を産ませたと疑う、テレンスという青年も定職がない。50歳代の富裕な女性に飼われているが、彼女が海外に出掛けている間に彼女の家を売り払う詐欺を考え始める。一方ベネットは子供を返そうと何度も思うのだが踏み切れないうちに、息子が死んだときの医師と深い関係になってしまう。そこにもと恋人が現れてここでもさやあてが始まる。

 

 400ページのほとんどが「わりない男女の相克」で、すべての家庭が壊れている。それらが絡み合って、悲劇のゴールへと突き進むのはまさに作者の真骨頂。思ったよりは美しい幕切れでしたが、どろどろしたシーンの連続にはやや閉口しました。こういうのが英国紳士・淑女はお好みなのでしょうか?