新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

8月のラスベガス

 本書(2008年発表)も、CBS系の人気TVドラマ「CSI:科学捜査班」のノベライゼーション。本家ラスベガスを舞台にしたシリーズの(日本での出版では)5冊目にあたる。このシリーズ、通常の映画のノベライゼーションと違って、舞台や登場人物は踏襲するけれどもストーリーそのものは小説家に任せる形式らしい。

 

 以前日本のドラマ「古畑任三郎」のノベライゼーションは良くて、「TRICK」のは面白くないと評したが、それは前者が三谷幸喜本人によるもの、後者が名の知れた作家の筆になったものではなかったからとコメントした。

 

https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2020/01/22/000000

 

 この後者の方式は米国でも普通で、新人作家の登竜門になることもあるという。しかし「CSI」のシリーズは一流作家が手掛けていて、ラスベガスシリーズの担当はマックス・アラン・コリンズエドガー賞にノミネートされたこともある実力者だ。

 

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 本書では特に捜査のきっかけが面白い。2つの殺人事件をCSIグリッソムチームが追うのだが、

 

ケース1) 3ヵ月前に死んだ母親は殺されたのだという娘が、死体を掘り返して検視してくれと言う。しかし棺の中からは、20歳そこそこの娘の死体が見つかる。

 

ケース2) 特別養護老人ホームで、心臓発作で死んだ老女を診た検視官が、同じホームで1ヵ月に4人も死んだことに不審を抱いてCSIを呼ぶ。

 

 と、些細なことから彼らが登場する羽目になるのだ。しかも時期は8月、ラスベガスでは夜でも38度は下回らず、昼間には48度にもなるという酷暑の中での(墓堀りを含む)捜査である。

 

 ケース1では、グリッソムたちのおかげで読者は葬儀社が表にみえないところでどんな仕事をしているのか、つぶさに知ることができる。何しろどこかで死体がすり替えられたことは間違いないのだから。

 

 ケース2では、心臓発作と思われた死体のレントゲン写真などから、犯人が空気を注射器で被害者に注射して殺した事実と、その解明法がわかる。よくミステリーで使われる手法だが、それをどうやって証明するかは勉強になった。

 

 人気TVドラマのイメージを活かし、かつ壊さないようにしてオリジナルミステリーに仕上げる・・・難しい仕事を作者は軽々とこなしているように見えます。これからもこのシリーズは探してみたいと思います。