新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

この人も「小さな政府」論者

 本書は「ローマ人の物語」など数多くの著作で知られ、紫綬褒章や文化功労章など数々の「勲章」をお持ちの塩野七生さんのエッセイ集。時代的には2005年ころで、世界ではイラク戦争、日本では小泉・竹中改革が進行していた。イタリアに憧れ、イタリアに住み、ローマ名誉市民として今もローマにお住まいらしい。

 

 政治的な理想は、ローマ帝国初期のカエサルに端を発する「小さな政府」時代だという。知力ではギリシア人に劣り、体力ではケルトゲルマン民族に劣り、技術力ではエトルリア民族に劣るローマ人が、なぜこれらの国や民族を含めた大帝国を打ち立てることができたかを、著者は「持てる能力を徹底的に活用したから」という。

 

 軍事力は必要だが、隣国を征服したとしてもその国を同化させる術を、ローマ人は知っていた。その地方の有力者を名誉ローマ市民として迎えたり、極端な例では元老院議席まで与えたという。その懐の広さが、味方を増やし敵を減らす外交戦略に活かされていたのだろう。

 

 本書は月刊「文芸春秋」に連載された40のエッセイをまとめたもので、日本の国連安保理常任理事国入りの議論から紀宮結婚まで幅広いテーマが扱われている。いくつか面白い記事があり、現代の日本の課題にも非常に役立つことを勉強できた。

 

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 例えば紀元前2世紀のローマでは、カルタゴを破って地中海の覇権を得ながら国内では中間層の没落と大量失業が出たとある。ローマの施政者たちは失業対策に成功しなかったのだが、その原因は失業の問題は貧困対策で対処しようとしたからだとある。失業とは仕事を無くすと自尊心を無くすと気づくのに時間をかけ過ぎたわけだ。この話など、今の日本に必要な視点だろう。小泉改革は何度も取り上げられていて、

 

・最大課題は行財政改革

・民間で出来ることは民間に

・変化が激しい中、政治と行政も変わるべき

 

 という主張・行動がブレていないと褒めている。また竹中教授を、ギリシア神話のトロイの王女カッサンドラに例えている。カッサンドラはアポロンから予見能力を授かるのだが、彼女の言葉を誰も信じない。予言の通り、トロイは滅びる。これも今に通じる話だ。「目的のために有効ならば、手段は選ぶ必要はない」などマキャベリの警句が全編に散りばめられている。

 

 今こそ著者の主張を直接聞きたいです。そう、「朝まで生TV」に出演してもらえませんかね。