新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

教育とビジネスの過渡期

 2020年発表の本書は、小泉・竹中改革以降の大学組織の変貌により、若い研究者が搾取されている実態を告発したもの。著者の山田剛志氏は、大学教授と弁護士の両面を持つ人。「産学共同研究」は、国立大学を法人にした2003年から推進され、現在まで大学に流入する民間資金は増え続けている。目的とされた、

 

・大学の知的財産の活用

・産学(研究)交流の促進

大学発ベンチャー起業の促進

 

 は言い亭の成果を揚げているように見える。しかし筆者は「教授陣にも、若手研究者にも、企業にもメリットのある産学共同は難しい」と結論づける。その証拠として、筆者自身が関わり合った3つのケースを匿名で紹介して、具体的な問題点を指摘したのが本書だ。

 

1)共同研究における、企業と研究者の特許トラブル

2)同、若手研究者へのハラスメント

3)大学発ベンチャーの内実と、働くポスドクの不安定な待遇

 

 のケースを通じて言えることは、関係者の意識の違いである。

 

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◆大学と大学内TLO(技術移転機関)

 共同研究の件数や、扱い規模(金額)にしか興味がなく、研究内容や相互の義務と責任については、学長が契約当事者でありながら関知していない。

 

◆大学教授

 従来からの経費が減らされ、共同研究で民間資金を入れないと研究室を維持できない。准教授や講師・院生も動員して、研究費用確保に奔走するようになる。

 

◆若手研究者

 博士号をとっても身分が不安定。ポスドクなどアルバイト掛け持ちでその日暮らし、講師等に就いても最初は期限付きで、2年で成果を揚げないとクビになってしまう。

 

大学発ベンチャー経営者

 高名な大学教授が就くことが多いが、商売など門外漢。助成金が続くうちはいいが、売り上げ回収のめども立たずに、研究者などに負荷をかける。

 

◇共同研究をもちかける企業

 「大学だからタダ」と思っているケースが多く、共同名義といいながら特許権は独占。支出した研究資金も、自社製品を買わせて回収するなど、食い物にしている。

 

 僕が学生の頃は、確かに大学は(教育機関だから)タダだった。それは社会人になっても似ていて、若いころは搾取され、管理職等になったら回収する風潮だった。それが「大学改革」で、ただの長老よりカネを集められる若手教授が発言権を増した。人が「時価評価」をされる方向に替わろうとしているのだが、その過渡期が今。現在では、若いころに搾取された分を回収できる未来は期待薄ですしね。