新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

日本人の格差意識2010

 巷間「小泉・竹中改革」が日本の格差を拡大したと言われるが、竹中教授は「小泉内閣当時にジニ係数が下がり、それ以外の時代にはずっと上がっている」と反論している。本書は竹中教授が政府を離れ、民主党政権になっていた2010年に発表されたもの。当時の日本人が格差問題をどう感じていたかを、労働者のリテラシーを分析してまとめたものである。

 

 著者の大竹文雄氏は、当時大阪大学社会経済研究所の教授。国内外の多くの研究者の論文(ピケティ教授のものもあった)を読み込み、日本の労働市場について考察を加えている。まずOECD加盟国の中でも、日本の労働者は2つ大きく他国と離れた特徴があるという。

 

1)貧富の差が生まれるとしても、多くの人は自由市場で良くなるか?

 軒並み70%以上がYesと答える中で、日本はロシア(53%)よりも低い49%しかYesと答えていない。市場経済への信用度は非常に低い。

 

2)自立できない非常に貧しい人の面倒を見るのは、国の責任か?

 これもほぼすべての国で80%以上がYesというが、日本は米国(70%)よりも低い59%しかYesと言わない。最も政府への依存性や信用度が低いことになる。

 

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 その後、昨今話題となっている各種の労働・経済政策についての分析が続く。

 

最低賃金の引き上げは、未熟練労働者の就労の機会を奪う。

・製造業派遣の禁止のような「非正規への制限」より「正規の既得権益の打破」をすべき。

・日本の独禁法は本来公取の領分だが、「消費者保護」を看板にした消費者庁の登場で運用が歪められかねない。

相対的貧困の拡大は、主として人口の高齢化が原因。しかし2000年以降、若年労働者間で格差が生まれていることには要注意。

・高齢化の最大の問題は、高齢者の投票が増えるわけで、政策が若者の希望から離れていくこと。

 

 など、納得できる論説が多い。特に最初の2項目は2009年の民主党政権交代時の公約だが、批判の対象になっていた。

 

 他にも面白い分析があって、人差し指より薬指が10%以上長い人は優秀、子供時代に夏休みの宿題を溜めた人はサラリーマンになって長時間残業する、という説には興味を惹かれた。巻末に金融リテラシーに関するクイズがあり、5年複利の借金の問題では全体の16%しか正解がなく、これでは暴利をむさぼる悪徳金融が絶えないと筆者は嘆く。

 

 本書から10余年、日本の格差意識は変化したのでしょうか?