新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

混沌へと向かう米国と世界

 「COVID-19」禍の2020年末発表の本書は、笹川平和財団上席研究員渡部恒雄氏の「トランプ以後」の国際情勢論。サイバーセキュリティや経済安全保障の観点から、国際情勢のお話を一度伺いたいと思っていて、その予習のために買ってきたものだ。筆者は米国の戦略国際問題研究所CSIS)での業務経験があり、帰国後も複数のシンクタンクで安全保障の調査研究をしてきた人だ。

 

 執筆期間は2020年の3月から、大統領選挙でトランプ再選がならなかった11月まで。あとがきを書いている時点では、トランプ先生がバイデン候補に敗れた結果を受け入れるかどうか不透明だとある。

 

        

 

 副題にあるように20の視点で国際情勢を論じているが、その半分以上はトランプ現象に関わるもの。イアン・ブレマーが言うように、世界は「Gゼロ」になっているのだが、それでも米国には存在感がある。いや、米国がトランプ現象で混沌に向かい、それが不可逆だと言うことで世界も混沌に向かって堕ちているのだ。いくつか面白いポイントがあった。

 

 ポピュリズム政治家は、政権に入って穏健になるか、化けの皮がはがれて突然消えるという。マッカーシー上院議員などの例をひいての説明で、英国ジョンソン氏、米国サンダース氏らと並んで、「れいわ」の山本太郎氏の名もある。警戒すべきは「より巧妙なポピュリスト」、例えばヒトラーのような人物だという。

 

 時代はストロングマンのものになっていて、プーチン先生、エルドアン大統領、ネタニヤフ首相の名が挙げてある。トランプ先生は彼らに憧れる存在で、彼自身はストロングではなくふりをしているだけらしい。

 

 「アメリカファースト」といい、国際連携をぶち壊し、「COVID-19」対応も誤ったトランプ先生のおかげもあって、世界の力の均衡点はアジアに向かうというのが結論。まあ仰る通りなのですが、執筆後2年経ちました。今はどう思っておられるか、直接伺いたいものです。