新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「太陽の国」の雪国で

 イタリアと言えば「太陽の国」、陽光降り注ぐイメージだがフランス・スイスに国境を接する一番小さな州ヴァッレ・ダオスタ州が本書の舞台。スイスアルプスの麓にあり、ウィンタースポーツが盛んなところだ。2013年発表の本書は、ローマっ子作家アントニオ・マンジーニのロッコ・スキャヴォーネ副警察長ものの第一作。本国ではすでに9作の長編が発表されているとのことだが、邦訳は初めて。

 

 本書の魅力は、何と言っても主人公のロッコの人格・経歴設定にあると思う。優秀な警察官だが、同時に悪徳警官でもある。ジャニコロの丘で愛妻マリーナと暮らしていたのだがマフィアの大物とトラブルになり、こんな辺境の州に飛ばされてきた。今でもローマ時代の悪徳警官仲間とはコンタクトがあり、本書の中でもちょっとしたアルバイトをしている。

 

 事件はアルプス中腹のスキー場で起きた。スキー場の整備をしていた圧雪車が付近の山荘の主人を轢いたのだが、口の中から他人のバンダナが発見されるなど殺人の可能性が高い。9月に赴任してまだ4ヵ月、ロッコはアルプスの最初の冬に悩まされている。防寒着を着ないと凍え死んでしまうし、田舎の警官たちは動きが鈍く指示が伝わらない。

 

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 そんな中でも監察医や科研のチーフとは(プロ同士)上手くやれるのだが、一番困るのは村人たちとのコミュニケーション。数百人の村は何世代にもわたって人の出入りがほとんどなく、みんななんらかの親戚関係にある。外部の人間には、肝心なことは話してくれない。

 

 そんな中、山荘の主人の美しすぎる妻ルイーザを巡っては、彼女の以前の婚約者オマルと被害者との三角関係が浮びあがる。寒くてもここは「太陽の国」、乱れた男女関係は一杯あり、ロッコでも愛妻がありながらノーラという愛人を持っている。地元の若い巡査イタロはロッコに資質を買われて運転手兼助手に抜擢され事件を追うのだが、ロッコのアルバイトにも手を貸しアルプスを越えてくる密輸品の横取りの片棒を担ぐこともする。

 

 乱れた生活、悪徳警官の所業を描きながら、事件の解決そのものは全くの本格ミステリーでした。イタリアの本格というのはほとんど記憶がないのですが、それが7年足らずで9作も出版できた背景なのかもしれません。まだ2020年に邦訳初版がでたばかりの作家です。2作目以降も期待しています。