新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

オレンジ郡のシングルマザー巡査部長

 T・ジェファーソン・パーカーという作者の作品を読むのは、初めて。巻末の解説によると2002年の「サイレント・ジョー」と2004年の「カリフォルニア・ガール」で2度米国探偵作家クラブ最優秀長編賞を獲った実力派だ。1年に1作程度という現代作家としては寡作家に分類される作者は、カリフォルニアを舞台にして警察小説やサスペンスなど1作ごとに趣向を凝らして幅広く創作を続けているという。

 

 そんな作者が唯一レギュラー探偵としているのが、本書の主人公マーシ・レイボーン巡査部長。2007年発表の本書は、マーシものの第三作にあたる。マーシはカリフォルニア州オレンジ郡の巡査部長、第一作で相棒だったヘス刑事との間に産まれた一人息子ティムを育てながら、警官を続けている。

 

 警察内部では「有能だが無茶をする女」と思われているらしく、前二作では一匹狼的な動きで暴れまわったらしい。本書ではそこまで過激ではなく、警官仲間夫婦を襲った事件の捜査を担当する。夫アーチーは大学野球のエースからオレンジ郡の保安官補になった万能スポーツマン、妻グウェンは商才にたけた美女。理想の夫婦だったはずだが、妻の誕生日の夜事件が起きた。

 

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 現場に駆け付けたマーシの前には、夫の拳銃で撃たれて死んだグウェンと頭に銃弾を受けて人事不省になっているアーチーの姿があった。夫が妻を撃って自分も自殺を図ったと考える警察上層部に向かい、マーシは30歳前なのに豪邸に住むアーチーたちが、自殺/心中するとは思えないと反発する。

 

 現場の庭から16インチの靴跡が見つかり、並外れた大男の目撃情報も出た。調査を進めると、若い夫婦が贅沢できるのは、癌の特効薬開発で急騰した企業の株式を持っていたからだとわかる。アーチーは奇跡的に生還したのだが、脳の一部を損傷して事件当夜の事が思い出せない。自分が愛する妻を撃ったのかどうかも自信が持てないのだ。

 

 解説では作者は深淵なラブストーリーが得意だとあるが、本書のそれはアーチーと死んでしまったグウェンの関係がそれだろう。脳を損傷したアーチーはグウェンの「天の声」を聴くことができ、その導きでマーシたちの一歩前を行き真犯人を追い詰める。

 

 捜査の合間に挟まれるマーシとティム、マーシの父親のホームドラマが結構切ないです。現代米国を知るにはいい教本とも思えるのですが、ちょっと600ページは長すぎますね。