本書(1993年発表)は、ジル・チャーチルの「Domestic Mystery」ものの第三作。「ゴミと罰」で登場した主婦探偵ジェーンの素性が、本書で少し詳しく語られる。というのも、ジェーンの実母セシリー・グラント夫人が娘のところにやってくるのだ。夫(ジェーンの父親)は米国政府の外交官で、2年刻みで多くの国を廻る仕事をしていた。だからジェーンには「故郷」と呼べる街がない。
ジェーンによれば、セシリーは「良い妻だったが、良い母では無かった」、夫を愛するあまり子供はほったらかしだったのだという。ジェーンも数年前に夫を事故で亡くし、母娘とも未亡人となった。今回の物語は、二人の息子マークとトッドが旅行に出てしまったので、娘のケイティと母娘水入らずで過ごそうと思っているジェーンのところに、セシリーがやってくることで始まる。
ジェーンの町では、有閑マダムたちが集まってお稽古事に励んでいる。今ブームなのは「自分史執筆」、ロマンス作家のミッシーが講師役となって連続講座の真っ最中だ。ジェーンも親友で探偵役の相棒であるシェリイも、自分史に挑戦している。
講座とはいえ参加者のほとんどが「プロの主婦」、レクチャーが済めば皆が持ち寄った料理でパーティをすることになる。この日ジェーンはキッシュ(Quiche)を持って行った。ところが嫌われ者の将軍夫人アグネスが昏倒し、将軍家のお手伝いさんも倒れてしまった。お手伝いさんは命を取り留めたものの夫人は生き返らず、殺人事件としてヴァンダイン刑事の捜査が始まる。
「ゴミと罰」で出会い、「毛糸よさらば」で親密になりかかったジェーンとヴァンダイン刑事。本書では4歳年下のイケメンということで及び腰なジェーンの態度もあって、なかなか進展しない。一方事件の方も今回はなかなか難事件、一向に容疑者が浮かばない中、ジェーンのもとには、
・自分史の本
・鳥かご
・青い花が入った盛り花
が送られてくる。誰かが事件解決のヒントを示そうとしているようだ。
英語の掛詞がからんでくるので、外国人には難しいヒントなのですが、解決そのものは鮮やかです。これまで読んだ3作の中では、一番見事な解決でした。もう少しセシリーさんが暴れてくれると、もっと良かったのですが。