新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ゴシントン・ホールのパーティ

 1962年発表の本書は、女王アガサ・クリスティの「ジェーン・マープルもの」。ジェーンは1930年「牧師館の殺人」でデビューして30余年経ったが、今でもセント・メアリミード村の牧師館の隣に住んでいる。ただ村はずいぶん変わった。新しい住宅街が広がり、若い住人も増えてきた。

 

 ジェーンもこのところ目が弱り、得意の編み物も難しくなった。脚も弱って庭の手入れも人任せ、新しい付添人やお手伝いのも満足していない。本書では最後のところで「100歳に見える」と評せられるシーンもある。気晴らしに散歩をしていて、彼女は転んでしまった。村の世話好き女性バドコック夫人が助けてくれて、大きな怪我も無かったのだが、ますます出不精になってしまった。

 

 村の古い屋敷<ゴシントン・ホール>は、新しく大女優マリーナ・グレッグ夫妻が住むことになり、大改装が行われた。改装成って夫妻の引っ越しパーティには、メディアや映画関係者、村の人達が集まってきた。しかし、その会場でマリーナと話し込んでいたバドコック夫人が毒殺されてしまった。

 

        

 

 バドコック夫人は自分のカクテルグラスをこぼしてしまい、マリーナから手渡されたカクテルを飲んで死んだ。犯人はマリーナを殺そうとしたと思われ、それを裏付けるようにマリーナには「今度はお前だ」との脅迫状も届く。大女優が絡んだ事件ゆえ、スコットランドヤードは、クラドック主任警部を派遣した。彼こそはこの村出身で、ジェーンを「おばさん」と呼ぶ人物だった。

 

 ジェーンは自宅に籠りながらも、パーティに出ていた親友ドリーから事情を聴き、多くの映画雑誌を取り寄せてマリーナの過去を探る。マリーナは離婚・結婚を繰り返していて、養子も3人持っていた。しかし実子は精薄児で産まれた一人だけ。クラドック警部が関係者に当たって得た情報も聞いて、安楽椅子探偵としての推理を働かせ始める。「人間の性質はどんな世界でも変わらないものよ」という彼女は、自分を助けてくれたバドコック夫人について「人が良くおせっかいな人、だからいずれこうなるはずだった」とつぶやく。

 

 数十人の目が光っている中で、誰がカクテルグラスに毒を入れられたのか?読者の目の前にあった真実を、ミス・マープルが残り20ページで明かす。一度映画で見たような気もします。女王らしい、鮮やかな結末でした。

 

    

 

PS:写真は「クリスタル殺人事件」の名称で映画化された本書の1シーン。マープル役はアンジェラ・ランズベリー、後ろ姿はクラドック警部役のエドワード・フォックス。