新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「ブロードウェイの名花」殺し

 1927年発表の本書は、米国で近代ミステリーの歴史を作った作家、S・S・ヴァン・ダインの第二作である。美術評論家W・H・ライトは病気療養中に多くのミステリーを読み、明白な欠陥がありながら版を重ねているものが多いことを知り、自ら執筆することにした。選んだペンネームがS・S・ヴァン・ダインである。処女作「ベンスン殺人事件」は大当たりし、実績ある美術評論家としての彼のすべての著作を合わせた以上の印税をもたらした。

 

 勢いに乗って発表したのが本書「カナリア殺人事件」である。これも大好評で、処女作の倍売れたという。彼が創造した探偵ファイロ・ヴァンスは、35歳の青年貴族。以前「ペダンティックな探偵」として紹介しているように美術・演芸・音楽に秀で、捜査の合間にも短いあいまいな外国語をはさんだり、該博な知識を披露する。これには親友であるマーカム地方検事すら、渋面を作ることもある。

 

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 今回の事件はブロードウェイの美人女優でカナリアとあだ名されるマーガレット・オデール嬢が、アパートの自室で絞殺されたというもの。アパートの表廊下には一晩中電話交換手が詰めていて、裏廊下には夜間に閂がかかるドアがある。カナリアは夜半に男友達と帰宅、その男が帰る時悲鳴を上げたが交換手や男が駆け付けると「何でもない」と言ってドアは開けてくれなかった。それ以降人の出入りはないはずなのに、朝メイドが死体を発見したのだ。

 

 マーカム検事の指揮下でヒース部長刑事らが捜査をした結果、4人の容疑者が現れる。いずれの男もカナリアとそこそこの仲であり、中には強請られていたものもいるらしい。ただ4人ともそれなりのアリバイも持っていて、捜査陣は密室+アリバイの壁に挑むことになる。

 

 ヴァンスがマーカムらと交す冒頭の捜査談義が面白い。雪に足跡を残して逃げた犯人を大人は男といい、子供は女と言ったケース。ヴァンスは、大人・子供の証言と足跡の分析を取り上げる前に、犯行の心理面を分析しろと言う。そして本件では4人の容疑者を集めて高額なポーカーゲームを行い、心理面から犯人を絞り込んでいく。

 

 高校生の時に読んで感動したミステリーです。評価の高い「グリーン家殺人事件」と同程度、「僧正殺人事件」よりは好きな作品と言っていいでしょう。足かけ50年ぶりに読んでも、感動は変りませんでしたよ。