新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

瀕死のB-787、中国へ

 「超音速漂流」(1980年発表)でデビューしたパイロット作家トマス・ブロックが1987年に発表したのが本書。デビュー作同様、危機に陥った旅客機内外で起きるさまざまなトラブルや思惑を描いたものだが、今回の危機の原因はハイジャックである。(デビュー作は事故)

 

 面白いのは舞台となる新鋭旅客機が、B-787だということ。もちろん本物のB-787の初飛行は2008年以後だから、本書に登場するB-787は作者の創造ということになる。それでも、太平洋をわたることができる双発の中型機で、エレクトロニクスを駆使しているという点は20年後に登場した旅客機と同じだ。

 

 心臓に欠陥があることで6年前にパイロットを辞めたジェニングスはプロゴルファーだった妻と小型機を操縦する趣味を持つ娘を連れて、ロサンゼルス発大阪行きのB-787に乗った。偶然だがかつての愛人キャシーがCAを努めていて、ジェニングスは困惑する。彼ら一家が乗る、当時のファーストクラスの描写が面白い。プレエコはもちろんビジネスクラスもなし、映画は前方スクリーンに投影、タバコもすうことができる。ああ、昔はこうだったのかと思わせる。

 

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 食事も映画も終わって、ジェニングスが洗面所に入るとそこに爆弾とハイジャッカーからの手紙が置かれていた。キャシー経由で通報をうけた機長のブランチャードは爆弾を改めて、ハイジャッカーの指示通り中国揚州に向かうことにする。やがてひとりの中国人がコックピットに入り、自分がハイジャッカーで仲間もいると告げる。

 

 しばらくたってコックピットから銃声が響き、機は急降下(Sky Fall)を始める。なんとかコックピットにジェンキンズが入ると、副操縦士とハイジャッカーが死亡、機長も重傷を負っていた。なんとか機体を立て直し副操縦席の娘とともに安定した飛行を取り戻したジェンキンズだが、ついに爆弾が爆発し客室で多くの犠牲者が出てしまう。

 

 6年のブランクがあるジェンキンズは、この間にエレクトロニクス化が進んだコックピットにとまどう。さらにストレスから、持病の心臓が不安定になり始める・・・。次々に襲い掛かる危機に加えて、この機で米国の軍事機密を持ち出そうとした中国の陰謀もからんで、サスペンスフルの展開となる。その中に、ハイジャッカーはどうやって爆弾を持ち込めたのか、ハイジャッカーの「仲間」はいるのかなど本格ミステリー風の味付けもあり、一気に読んでしまった450ページでした。