新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

11年前の安全保障論

 本書の発表は2010年、日米両国で民主党政権で日本では菅(カン)総理、米国ではオバマ大統領の時代である。この時期、日米同盟は未曽有の危機にあった。前の鳩山総理が普天間問題を「最低でも県外」とのスタンスでオバマ大統領と交渉に当たり、「Trust me!」といって関係を悪化させた。

 

 その後も外交に不慣れな民主党幹部は米国との交渉で不審をあおり、韓国の李政権が米国と急接近して「Japan Passing」となった。中国の軍事的膨張もあって、小沢元幹事長の中国寄りのスタンスが米国の懸念を生んだ。民間商社マンだった丹羽氏を中国大使に起用したのは、中国に対して「日本は中国との関係で経済問題しか考えません」という誤ったメッセージを出したことになると本書にある。

 

 本書はいずれも知日派の二人、

 

・リチャード・L・アーミテージ元国務副長官(共和党

・ジョゼフ・F・ナイJr ハーバード大教授(民主党

 

 との鼎談を、日経新聞社の春原(すのはら)剛氏がまとめたものである。

 

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 全体の半分くらいはイラク戦争以前の日米関係のことで、それらは僕もおおむね承知していること。しかし残りの部分は、11年前の生々しい外交・安全保障のことで、まだ歴史の範疇でくくられないものだ。例えばオバマ・鳩山対談でも、鳩山総理の失態については周知されているが、決してオバマ大統領にも非がなかったわけではないとある。彼は全てがビジネスライクで、1対1の時に見せる人間的魅力に欠けていたという。

 

 北朝鮮についてはまだ金正日が存命だったが、核の10発ほどは持っているがさほどの軍事的脅威ではなく、中国などは内部崩壊で難民が溢れることを恐れているという。この状況は、あまり変わっていないようだ。中国は海洋進出、軍事力強化を図っているが日米は韓国のほかインドとも組んでこれを封じ込めるべしという。今のFOIPの概念だろう。日本の内政については、

 

憲法9条は日米同盟発展の障害、まずは解釈の変更で良い。

集団的自衛権は同盟強化に必須だが、すでに実質的に海外派兵も出来ている。

・日本版NSC国家安全保障会議)は必要、諜報能力強化も。

 

 との提言で、沿岸防衛力・ミサイル防衛力とサイバー戦能力を強化すれば、核武装は必要ないとある。戦略的に核兵器の話が多くて、内容の不明なところもあります。実は筆者とは最近、サイバーセキュリティ関連会合でよくお目にかかるので、今度お会いしたら聞いてみましょう。