新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

捜査検事霧島三郎

 高木彬光が産み出した名探偵は、神津恭介に始まり、百谷泉一郎夫婦、大前田栄策、墨野隴人などがいるが、TVドラマにもなったせいか本書の霧島三郎の知名度が高い。神津恭介シリーズもTVで放映されるのだが、何しろ天才過ぎて長続きしなかったようにも思う。名探偵は名探偵でなくてはならないが、小説ならともかくTVドラマだとあまり常識外れな主人公を続けるのは難しい。

 

 その点、名探偵ではあるが常識人でもある霧島三郎というキャラクターは、万人受けするものだったように思う。ただ作者は霧島三郎のシリーズを、1ダースしか書いていない。本書は1973年から「週刊小説」に連載されたもの。1965年に「検事霧島三郎」でデビューしてから5年ほどは毎年2作ほどに登場した主人公も、1970年「灰の女」を最後に新作が出ていなかった。本書の後も1作が出ただけで終わるので、作者はこのキャラクターになにか限界を感じていたのかもしれない。

 

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 ある日江上弁護士事務所を訪れた男が、応接間で弁護士の帰りを待つ間に死んでしまった。所持していた薬を飲んだ毒殺らしい。ポケットには半分に切ったスペードのJの札があった。捜査の結果、平田というその男は、全国でかなり大口の詐欺を働いていたことが分かる。さらに半分に切った札については、20年前に似たものが登場した事件があることを江上弁護士が知っていた。その事件では、満州帰りの料亭の女将<ハルピンお春>が惨殺されている。お春は満州からソ連侵攻前に引き揚げていて、大量の麻薬を持ち帰った可能性がある。さらに全身に派手な刺青をした女丈夫だった。

 作者のデビュー作「刺青殺人事件」でも自雷也・綱手姫・大蛇丸の刺青が登場するが、本書でもお春の娘と思われる杉山勝枝は、背中に龍と弁天様を背負った上に内股にトランプ模様も彫った女である。法曹界の先輩の江上弁護士の息子や娘婿も事件に絡んできて、先輩からの依頼も受けた霧島三郎は捜査の指揮を執り始める。

 

 検事というよりは、指揮下の警官や検察事務官の地道な活動がち密に書き込まれているのが、このシリーズの特徴だと思う。事件そのものは結構ヴィヴィッドなものだが、関係者も少なくて「犯人当て」ならば難しくはない。このシリーズはやはり捜査検事の雰囲気を味わうものですね。それがひとわたりできたところで、1ダースで終了になったのかもしれません。