新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

若狭・東京間の遠隔推理

 江戸川乱歩に続いて登場した本格探偵小説の旗手、横溝正史高木彬光の作風には対照的な部分がある。横溝流は怪奇ものと見せかけて合理的な解決に持ち込むもので、ディクスン・カーの手法に近い。高木流は怪しげは雰囲気の中にも科学の眼が光っていて、よりテクニカルである。エラリー・クイーンヴァン・ダインに近いような気がする。もっと言えば、鮎川哲也の作風はクロフツに近いかもしれない。

 

 そんなわけで三人の大家の中では、高木彬光の初期の作品群である神津恭介ものが一番好きだ。本書はデビュー10年近くたって、神津恭介の推理に脂ののっていたころの作品である。もとは中編小説だったものを、加筆して250ページの短めの長編に仕立てている。

 

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 恭介と東大の同期でワトソン役の松下は、やはり同期の福原医師が住む若狭で真夏を過ごしながら著作の想を練っていた(ま、呑んでいるだけだが)。その街の旧家、林家の当主は変わり者。2階にある自室に「四次元に開く扉」を設置し、精霊を呼ぶと言っている。林家には当主の死んだ兄の妻、その後夫、当主のの妻、当主の愛人、その子供など複雑な関係の人たちが一つ屋根の下に住んでいる。

 

 当主が自室で射殺されたのだが、その部屋は扉も窓も施錠された密室だった。.22口径と思われる凶器の拳銃も見つからない。地元警察に協力して事件に介入した松下だが、密室の謎を解くことができず結局恭介に助けを求める。話を聞いた恭介は、

 

 「拳銃が見つかったら現場で発射して音を確かめろ。あと角封筒に糸を付けたものを作って家族に見せろ。それを見て顔色を変えたものが怪しい」

 

 と不思議な指示を東京からしてくる。結局250ページの最後50ページにならないと恭介は登場せず、彼の到着後すぐに事件は解決する。もとは中編だったのを長編にするのに、恭介の登場を遅らせたのだろう。名探偵が出てくると謎は解けてしまうから。

 

 とはいえ、大変面白く久しぶりに名探偵神津恭介を味わえた。ちなみに3組の「似ている」を最初に紹介したが、横溝作品はカーより好きだし、鮎川・クロフツは互角。残念ながら、高木作品よりはクイーンやヴァン・ダインの方が好きですよ。念のため。