新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

Intelligenceは国家のお仕事

 本書は背任罪で有罪となり執行猶予付きの刑が2009年の時点で確定した元外務省分析官佐藤優氏が、20062007年にかけて「フジサンケイ・ビジネスアイ」に連載した60篇を1冊にまとめたものである。さらに文庫化にあたり、各篇についてのその時点でのフォローや冒頭「Qさんへ」とする序文も添えられている。筆者はロシア通として知られた分析官で、本書の各篇を執筆するにあたり自分を追った外務省への恨みや危惧が根深い。一方で「国策捜査」で共に表舞台を追われた政治家や実業家との交流もつづられている。

 

 筆者が主張する「国策捜査」とは、田中角栄以来の累進課税で高額所得者から得た税収を地方などに還流する「大きな政府」路線を小泉改革が転換したことに端を発するという。転換には大きな事件が必要で、自分や前記政治家・実業家はそのいけにえに選ばれたのだという。その真偽はともかく、本業のインテリジェンスに関しての記述はさすがで、

 

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GDP(当時)世界2位の国の能力は、それほどひどくない。

・しかし政府の各機関が個別に情報収集・分析をしていて統一されていない。

・このところの外務省の幹部は、その能力が下がった。しかしxxxxのような能力者はいる。

・麻生(当時)外務大臣は英国仕込みのインテリジェンス能力があり、前任者とは異なる。

 

 と評している。筆者はソ連崩壊の時期モスクワに赴任していて、ゴルバチョフ・イェリツィン・プーチンらの政策を生で見てきた。これらの政権のキーマンも知悉しており、インテリジェンスの世界の住人の実相を踏み込んで説明している。これは「サイバー空間」での僕らの対応にもヒントになる。

 

 国際情勢については、10余年前の状況認識だが、現在もヒントになる記述が多い。今もイランと北朝鮮が連動する動きを見せているが「核」という線での両国の結びつきは強い。イランとは安倍外相(元総理の父)以来の特別なパイプ、北朝鮮とは拉致問題でこれも特別な関係にある日本の外交が、両国との交渉で試されると筆者は言う。中国については多くの記述はないが、今中国で起きている「資本家糾弾」の流れは、往時のロシアの「オリガルヒヤ排斥」と同根だと思う。オリガルヒヤとは寡占資本家のことで、プーチン人気が高いのも資本家を悪者にして叩いているから。

 

 最近は大分丸い論説が多い筆者ですが、この時期は辛辣でしたね。その分、本書は勉強になりました。