2022年発表の本書は、イェール大学助教授の成田悠輔氏(専門は非常に広範囲*1)の民主主義の将来像。資本主義と民主主義は近代社会の両輪。資本主義で経済を廻して富を(富裕層や大企業に)稼がせるが、民主主義は一人一票なので大衆の意志が反映して富が再配分される仕組み。しかし今の日本を含めた先進諸国では、資本主義は盛況だが民主主義が機能していないと筆者は言う。
民主主義ながら大衆の意志を汲めない欠点が露呈していて、日本の例で言えば、
・数年に一度の国政選挙では、Aには賛成だがBには反対などの意志が示せない
・かといって「One Issue」で選挙するのはコストがかかりすぎる
・世論調査は有権者全体の意見を反映していないし、問い方にも問題がある
・反ってSNSなどの「世論」が意味を持つが、これも分断を産みやすい
という。
有権者としてはこの事態に、
1)闘う:民主主義に愚直に向き合い、政治体制などの変革を希求する
⇒ 各国で延々やっているが、打開の光は見えてこない
2)逃げる:タックスヘヴンならぬポリティカルヘヴンに逃げ出す
⇒ 大企業や富裕層はできるかもしれないが、一般大衆には無理
3)構想:今日の民主主義の課題を踏まえた新しい民主主義の発明
⇒ 筆者はこれを勧め、無意識データ民主主義に行きついたという
市民の意識をセンスする仕組みを構築し、政治課題について全員に問う。その結果、多くの人が望む方向に、政治が向いていくというわけ。筆者の主張は「選挙がアルゴリズムになる」だが、すでに選挙というお祭りは不要である。また政治家も要らなくなると言うが、ちょっとこの点は同意できない。筆者の新しい民主主義の中では、
・政治家
・官僚
・司法
・メディア
の役割を再定義する必要があるというだけだ。どんな政治課題を問うかの設定もアルゴリズムというのは、乱暴なように思う。
しかし、面白い提案でした。一種の理想郷と思って、意識しておきましょう。
*1:データ・アルゴリズム・ポエムを使った事業や政策の研究者