新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

三人の元IRAメンバー

 これまでも、ジャック・ヒギンズの作品をいくつか紹介してきた。おおむね英国情報部ファーガスン准将と彼が使う工作員のシリーズと、ノンシリーズに分けられる。ノンシリーズは時代も登場人物もまちまちなのだが、本書ではシリーズのレギュラーメンバーが何人か登場する。

 

 ファーガスン准将と並んで古株なのが、リーアム・デヴリン教授。第二次世界大戦中のチャーチル襲撃計画「鷲は舞い降りた」で登場した工作員で、戦後はIRAの指導者でもあった。今は引退して母校トリニティ大学で教鞭をとっている。

 

https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2019/09/03/000000

 

 もう一人は「嵐の眼」で登場した元米軍特殊部隊のマーティン・ブロスナン軍曹、彼もIRAの強力なメンバーだった。今はフランスで警官を殺した罪で有罪となり、絶海の孤島で終身刑に服している。

 

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 本書(1982年発表)ではもうひとりのIRAメンバー、フランク・バリイが登場する。彼はIRAを離れた後、フリーのテロリストとして各国の要人暗殺を手掛けている。彼を動かしているのは思想信条ではなく報酬、「悪魔が味方している」との評判をとり尻尾を掴ませない。

 

 ファーガスン准将がバリイに近づけたスパイも正体を見破られて殺されてしまい、ついに准将はバリイのIRA仲間だったデヴリンとブロスナンにバリイ抹殺を依頼する。そのころバリイはソ連の依頼で、西ドイツが開発した新型対戦車ロケット砲を奪取する計画を進めていた。

 

 フランス駐在のKGB大佐、南仏に縄張りを持つ暗黒街の組織の長と息子を含め、登場人物のほとんどは一筋縄ではいかない男。依頼した方もされた方もお互いを信用していないし、裏切りを警戒するだけではなく裏切りの準備も怠らない。

 

 准将も2人の元IRAを巻き込むには嘘をついているし、ブロスナンなどは准将がフランス当局に「超法規的措置」での仮釈放をさせようとするのを無視して脱獄を図る。KGB大佐とバリイも、虚々実々の駆け引きを続けている。

 

 そんなわけで250ページほどは、あまり派手なアクションにはならない。むしろその部分の方が、冷たい恐ろしさを感じさせる。解説にあるように、スパイスリラーの傑作に数えてもいいような作品です。ヒギンズの作品も残りあと数冊、大事に読みますよ。