新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

アフリカ沖のトミーとジェリー

 第二次世界大戦の大西洋での海戦といえば、英国作家を多く思い出す。例えば、ダグラス・リーマンの諸作は何冊も紹介している。これに比べ英国海軍と戦った相手、ドイツ海軍を主役に据えた話は、少なくとも日本ではあまり多く紹介されていない。以前、「Uボート113最後の潜航」(原題:Iron Coffin)を紹介したジョン・マノックはアメリカ人。ドイツ人作家のドイツ海軍ものを読んでみたいと思っていたところ、本書(2007年発表)が手に入った。

 

https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2019/12/12/000000

 

 作者のペーター・ブレントはドイツ海軍の潜水艦乗り、航海士だったらしい。原題の「Jagd vor Afrika」は、アフリカ(沖)の狩りという意味。時代は1940年3月、東部戦線でポーランドは分割したものの、西部戦線では「奇妙な戦争」が続いていて英仏軍も独軍も動きを見せない。

 

        f:id:nicky-akira:20200709134512j:plain

 

 それでも海軍の主力「Uボート」は、大西洋に出撃していく。狙いは大英帝国の補給線をカットすること。フォン・ハッセル大尉が艦長として乗り込む「U-68」はⅨB型の新鋭艦だが、外洋作戦をこなすために大型になり鈍重なのが気になる。また新造艦につきものの初期不良にも悩まされながら、最初の航海に出撃する。

 

 作戦海域はアフリカ、シエラレオネ沖である。零下の北海から赤道めがけて南下し、独行船や護送船団を攻撃する。当然船団護衛の英国海軍とは、刃を交えることになる。彼らは英国艦を「トミー」と呼び、英国海軍はドイツ艦を「ジェリー」と呼ぶ。アフリカ沖で、両軍の命を懸けた莫迦し合いが繰り広げられる。

 

 「U-68」は秘かに先行していた補給艦から補給を受けようとするが、補給艦は「トミー」の巡洋艦隊に発見されてしまった。「U-68」は巡洋艦の1隻を撃破するのだが、沈んだ補給艦の乗組員も救助して身重になり燃料や補給物資も尽きてきた。そこに英国駆逐艦ワーロック」を始めとするハンター部隊が襲い掛かる。

 

 作者の海軍での経験もあって、リアリティのある潜水艦の作戦行動や戦闘シーンが豊富です。作者には現代海軍の潜水艦ものも、本書の続編もあるようなのですが日本では翻訳出版されていないかもしれません。ただでさえドイツ語の翻訳者は少ないでしょうしね、ちょっと残念。