新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

シャロン・テート事件の20年後

 本書は、「放映されなかったコロンボもの」のひとつ。以前「13秒の罠」もそうだと紹介している。その作品は、いつものW・リンク&R・レビンソンではない作者だった。本書はいつもの二人に加えて、ウィリアム・ハリントンが著者欄に名を連ねている。恐らくはこの人物がメインのライターだったのだろう。「刑事コロンボ」ほど有名になってくると、そのシチュエーションでいくらでもパロディ含む贋作はかけそうだから。

 

 本書の舞台背景は、ロサンゼルスの高級デパートと映画業界。1994年発表だからすでに映画は斜陽産業だったが、それでも多くの人を惹きつける魅力にあふれた業界のようだ。高級デパート「コウリーズ」の入り婿社長ジョゼフと、妻アイリーンの関係は冷え切っていた。

 

 引退したのに「コウリーズ」の株の6割を持つ、アイリーンの父親の目も厳しい。アイリーン自身、独自の高級女性用下着ブランドを立ち上げ好評を博している。そんな中ジョゼフは自社の宣伝を兼ねた映画の製作に徐々にのめりこみ、モデル出身の愛人をその準主役に充てている。

 

        f:id:nicky-akira:20200627150710j:plain

 

 この映画、有名な映画監督ロマン・ポランスキーが撮影せずに終わった脚本を使っている。高級デパートを舞台にしたコメディで、「コウリーズ」を使えばそれ自身の宣伝効果が大きい。ジョゼフが店のカネを不正につぎこんでも、なんとか完成させようとする姿がいじらしい。

 

 カネの流用をアイリーンに見破られたジョゼフは、愛人と一緒にアイリーンを殺すのだが、期せずして「シャロン・テート事件」をなぞる偽装工作をする羽目になる。事件を担当したコロンボ警部は、「マンソン・ファミリー」の残党による犯行とする意見には疑問を抱く。

 

 1969年ポランスキー監督の妻で女優のシャロンらが、カルト教団に惨殺された事件で、社会に大きな衝撃を与えた事件である。物語中、コロンボが事件の検視をしたミゾグチ教授を訪ねてアイリーン殺害事件との相違を聞きに行くシーンがある。この事件は20年たっても、映画業界に強い影響を与えていたことがわかる。

 

 事件の解決はいつものように鮮やかなのだが、それよりもデパート業界のウラや映画産業の状況について勉強させられた一編でした。