新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ネット時代の旧メディアの姿勢

 2020年発表の本書は、ニッポン放送で「OK! Cozy up!」を担当するパーソナリティ飯田浩司氏の初の著作。スポーツ中継をしたくて入社した放送会社で、制作部への配属から現場の記者、ラジオパーソナリティなどを通して、著者なりのメディアのあり方を述べた書である。

 

 タイトルにあるように、先輩たちの中には「メディアは反権力」と決めつけている人もいて、著者はそれに疑問を投げつける。メディアが権力に寄り添うようになってはいけないが「マスコミの使命は権力と戦うこと」というスローガンは、民主主義を守るために倫理観をもって情報発信をするメディアの姿勢を示したもので、「権力と戦う」という手段が目的化してはいけないと冒頭にある。

 

 特に今では一般市民もインターネット経由で情報発信ができるので、メディアには「プロとしての矜持」がより求められるということのようだ。メディアは市民に考えるための材料を提供するのが第一で、意見を押し付けて(刷り込んで)はならないという。つまり、

 

・根拠を示し、

・一次情報を必要以上に加工せず、

・誰の主張かを明確に、

 

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 した「透明性の高い報道」に努めるべきだということ。巻末に放送法第四条が引用してある。

 

1)公安及び善良な風俗を害しないこと

2)政治的に公平であること

3)報道は事実を曲げないですること

4)意見が対立している問題については、出来るだけ多くの角度から論点を明らかにすること

 

 これに照らすと、昨今の偏向報道のひどさが実感できる。TVの報道番組が時事問題を扱うだけでなく、ワイドショーやバラエティ番組までが時事問題を取り上げ、センセーショナルな報道をしている例も、いくつか挙げられている。

 

・米軍基地に賛成か反対かと単純化した設問

自衛隊の戦力整備を「戦争につながるもので軍靴の響き」と評する声

東日本大震災の被災者を画一的に「可哀そう」とするスタンス

・データに基づかない経済議論と弱者救済論

 

 選挙期間中の報道も、公平性を保たないといけないのは当然だが、候補の主張を報道する時間を同じにする「量の公平」ではなく、「質の公平」こそ重要だと筆者は言う。

 

 放送法に「政治的な中立」が記載されているのに、とても中立とは思えない報道が大手を振って歩いているのが日本の現状です。これも総務省がちゃんと監督すべきなのですがね。