新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

連邦司令官ジョーンズ、2002

 なんとも不思議な物語である。以前短篇集「地図に無い街」、長編「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」を紹介したSF作家、フィリップ・K・ディックの初期の長編が本書(1956年発表)。時代は1996年から始まるが、第二次世界大戦後地球上で中ソ対西側諸国の核戦争があり、その後地球連邦政府が出来ている。米国はじめ西側諸国は戦争には勝利したようだが、大きな傷を負いフランクフルトなどはまだがれきの山だ。

 

 放射能の影響かミュータントが大量発生し、あるものは過疎地に隠れ住み、あるものはカーニバルや酒場で見世物になっている。街は表面上平穏だが、ある日秘密捜査官カシックはカーニバルで予言者を名乗る男ジョーンズに逢う。彼は「個人の未来はわからないが、社会の未来なら1年後まで分かる」という。彼は<漂流者>というエイリアンが地球に迫っているとカシックに告げる。

 

 実際に<漂流者>は、太陽系にやってきた。全長6mにも及ぶ単細胞生物で、地球環境や人畜に被害はもたらさないが、次々に降り注いでくる。<漂流者>の来訪以外にも次々と予言を的中させるジョーンズは、6年のうちに「宗教司祭」になり信者を増やしていった。連邦政府は彼を危険人物と見て、常時監視を付けるようになる。

 

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 一方のカシックは、連邦政府の極秘プロジェクトに関わるようになったが、それは人工的に作り出したコビトのミュータントを金星に近い環境で育てるものだった。カシック夫妻が街中に呑みに出るシーンでは、ロボットタクシー・ロボットウェイター・両性具有ミュータントなどが出て来て、マリファナのカクテルのように怪しげな飲み物も日常呑まれているさまを示す。

 

 1年先まで見通せるジョーンズは、当局がワナを掛けても容易にこれを避け、スナイパーが狙ってもその瞬間に弾丸を外す芸当を見せる。やがて大きな政治勢力となった「ジョーンズ青年部隊」は、ジョーンズを連邦司令官にするよう連邦政府に申し入れる。住民投票は、それを認めるのだが・・・。

 

 <漂流者>の正体やコビトを創ったプロジェクトの意味、ジョーンズの能力の意味とその限界など、後半に意外な展開が詰まっている。本書は作者の第二作なのだが、後年有名になった他の作品よりストレートに主張が見えてくるのがいい。変わった作者と思っていましたが、それは最初からだったのですね。とても面白かったです。