新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

名探偵エリザベス二世陛下

 本書は題名の通り、ほとんどのストーリーがバッキンガム宮殿の中で展開する。それなのに、「カナダ推理作家協会賞受賞」ってどういうことだろうといぶかった。実は作者C・C・ベニスンはカナダ人、なのにバッキンガム宮殿フリークだと巻末の解説にある。本書は作者のデビュー作で、その後同じ「わたし」ことジェィン・ビーを主人公にしたシリーズを発表している。

 

 ジェインは20歳のカナダ人、母国で大学に入ったものの休学して欧州を巡り大叔母グレイスのもとに身を寄せた。そこでバッキンガム宮殿でのメイド職を得て、宮殿に住み込んでいる。バッキンガム宮殿には300人ほどの使用人がいて、メイド(女性)が36人、下僕(男性)が13人いると解説にある。

 

 ハンサムなカナダ人の下僕ロビンは21歳、ジェインもちょっと心惹かれたが躁鬱症がある。ある日酩酊して宮殿内で倒れ、エリザベス女王陛下が彼につまづいて転んでしまう。しばらく入院していた彼は、退院後のパーティで派手好みの美人メイドアンジェラとの結婚を発表する。ところがその後、女王を訪ねて話をすると周囲に言っていた彼は、再び倒れ今度は亡くなってしまった。

 

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 死体の第一発見者になった女王は、ロビンの死因に疑問を持ちジェインに内偵を命じる。あくまで極秘の内偵なので、メイド頭のミセス・ハーボトルの厳しい指示をかいくぐりながらジェインは関係者から情報を集める。女王も検視をした医師からロビンの死因などを聞き出すが、毒物中毒で死んだこと、エイズを発症していたことが分かる。ロビンはゲイで下僕仲間のインド人と愛人関係にあったのだが、じゃあアンジェラとの結婚は何なのか?ジェインは噂を集めて廻る。

 

 宮殿フリークらしく、作者はバッキンガム宮殿の内装や調度、メイドや下僕の日常を細かく描写する。宮殿の平面図も付いていて、理解の助けになる。宮殿内で記録映画を撮っている監督やそのスタッフも登場する。ロビンの過去を調べたジェインは、彼が名家アルヴェストン伯爵の継承者だったことを知る。しかもアルヴェストン家には「切り裂きジャック事件」に関わる黒い噂が・・・。

 

 貴族趣味満載のミステリーで、最後に登場人物を集めて事件の解決する役割をエリザベス女王自身がする異色作です。ミステリーとしてより、その特異な雰囲気を味わうのがいいかもしれません。