新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

20世紀、空の闘いのドキュメント

 1996年発表の本書は、航空小説作家のスティーブン・クーンツが、第一次世界大戦からベトナム戦争までの空の闘いを記したドキュメンタリーを抜粋・再編したものである。邦題は「撃墜王」となっているが、収められている21の物語には戦闘機だけではなく爆撃機やヘリコプターも含まれるから、原題の「War in the Air」の方が正しく内容を表している。

 

 1903年ライト兄弟が「飛行機」を飛ばしてから、20世紀は「空の世紀」と呼ばれるほど、この新しいテクノロジーが重要になった。その重要さは戦争という舞台でより強調されることになる。本書の基となったドキュメンタリーは、実際に「空飛ぶ兵器」に搭乗した人の自伝・記録・日記などである。

 

 クーンツの序文によれば、本書はヒコーキの本ではなく「飛行機乗り」の物語だ。例えば、第二次世界大戦で2,530回もの出撃をしたハンス・ルデル大佐の巻では、シュツーカでの爆撃シーンではなく撃墜されてロシア戦線の地上を逃げ回る大佐の苦闘が描かれる。広島に原爆を落とした「エノラ・ゲイ」の巻では、大量破壊兵器を使う爆撃機の搭乗員たちの姿が中心だ。

 

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 登場する機種は、

 

モラーヌ・パラソル

RAF SE-5

スパッドA2

スピットファイア

Bf-109

ドーントレス

F4Fワイルドキャット

零戦

B-24リベレーター

Ju-87シュツーカ

P-40カーチス・ウォーホーク

Me-262

B-29

F-105サンダーチーフ

F-4ファントム

A-4スカイホーク

OH-6

 

 など実にバラエティに富んでいる。もちろん面白いのは戦闘機による空中戦だが、初期の頃にはレンガを投げたり拳銃でパイロットを狙ったりしていた。機関銃が装備されると戦闘は激化し、5機以上を撃墜したものを「エース」と呼ぶようになった。しかし一方的な闘いは少なく、エースたちも何度も撃墜されている。

 

 ミサイル以前の戦闘機の闘いは、いかに後ろをとるかだった。352機を撃墜した記録を持つエーリッヒ・ハルトマンは「発見・決断・攻撃・離脱」の流れを重視し、先に発見し奇襲ができるとき以外は戦闘機と戦わなかった。一撃離脱型のドイツ戦闘機の特徴を生かしたものであり、決して無理な闘いはしないと決めていた。

 

 クーンツは軍用機が大型・高価になり、5機を撃墜することも難しくなったといいます。「エース」の時代は、終わったようです。