航空機を中心に据えたミリタリー小説は多いが、輸送機が前面にでてくるものは珍しい。作者のジョン・J・ナンスももちろん軍人だが、巨大輸送機ロッキードC-141の機長をしていたことがあるらしい。
・航続距離 2,550km(最大ペイロード)
プラット&ホイットニーエンジン4基で、150トン近い機体を飛ばすわけだ。
いわゆる湾岸戦争が一応の終結をみたものの、サダム・フセインの陸上戦力の多くが残された状況のイラクと、サウジアラビアなどに展開した多国籍軍(中心は米軍)が緊張状態にあったころが背景である。イラクではサダムが一発逆転を狙って生物兵器を開発、ペストよりはるかに恐ろしい感染力と致死性をもったウィルスが完成したという設定になっている。
研究所長のアッバース博士は自ら開発したウィルスが実際に使われる事態に直面して恐怖し、多国籍軍に通報する。砂漠の中の研究施設をウィルス毎破壊する必要に迫られた米軍は、M2ブラッドレー1両、M113APC2両にデルタフォースを乗せて研究所攻略に乗り出す。その空輸を担うのが、C-141とその機長ウェスターマン大佐である。
ウェスターマン大佐をイラクや周辺国のレーダーを欺瞞するため、サウジアラビアの基地から直接イラクに入らず、空中給油機を使いエジプト・ヨルダンを迂回する複雑なルートを考える。通常使われるC-130輸送機では上記戦闘車両も積めないし、航続距離も足りない。それゆえ巨大輸送機C-141が登場するのである。
C-141を始め軍用機の装備(ハードウェア)や運用(ソフトウェア)が細かく書かれていて、航空機ファンなら狂喜するかもしれない。作者も軍機に触れないようにリアリティを持たせる書きぶりに、軍の協力を得たとも言っている。しかし所詮輸送機で武装は皆無だし、派手な戦闘シーンは期待できない。どうするのだろうと読み進んでみると、主役のはずのC-141は物語の中途で墜落、あとは奪ったトラックやセスナなどで逃げ回ることになる。
研究所の破壊は無事終了したが、ウィルスを入れた2つの容器がすでに持ち出されていて、アッバース博士はこれらを追ってイラク中を駆け回る。むしろ主役はこの博士ではないかとすら思わせる活躍だ。なぜデルタフォースが係らないかというと、「研究所のウィルスを無力化、研究員を保護(もしくは拉致)、研究施設を破壊」という命令は完遂したと指揮官が言って多国籍軍陣地に帰ってしまったから。すでに持ち出された容器については、命令にないというガンコぶりだ。