新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ボストン名家の秘密

 以前3作ほど、ボストン近郊のバラクラヴァ農業大学のシャンディ教授を主人公にしたシリーズを紹介した。ユーモアというよりファースに近い物語で、それらに続く作品は読んでいない。しかし作者のシャーロット・マクラウドには、もうひとつボストンを舞台にしたシリーズがあることを最近知った。

 

 それが本書(1979年発表)に始まる、セーラ・ケリングを主人公にしたもの。シャンディ教授ものとは全く違う、シリアスで暗めのサスペンスミステリーだという。藤沢のBook-offで何冊かまとめ買いしてきたので、早速第一作「納骨堂の奥に」を開いてみた。

 

 ボストン名家の若奥様セーラは、26歳。結婚して7年、48歳になった夫のアレクサンダーはもともと従兄弟だった。ケリング家では昔から財産の流出を防ぐため、一族の中での結婚を繰り返していた。夫はいまだに彼女を幼いころのように「おちびさん」と呼ぶ。愛し合ってはいるのだが、姑のキャロラインは視覚・聴覚障害の二重苦なのにかくしゃくとしていて、73歳の今でも美しい。家計はすべて姑が握っていて、セーラは生理用品を買う2ドルすら、夫に言ってつど出してもらうような日々だ。住み込み女中のイーディスも、セーラには冷たくあたる。

 

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 寒さの増す11月にセーラの大伯父が亡くなり、ケリング家の納骨堂に遺骸を納めるよう遺言があったので、セーラは何十年も人が立ち入っていな納骨堂に入った。そこには不思議なレンガ壁があって、突き崩すと白骨化した死体があった。30年ほど前に失踪したストリッパーの死体で、何者かに殺害されここに遺棄されたらしい。

 

 ケリング一族の中心たるアレクサンダーの家は、市内の大邸宅のほか海に近い別荘、多くの宝石類や貴重なクラシックカーなどを保有している。しかし家の中には陰鬱な空気が流れ、現れた30年前の死体は、キャロラインらに微妙な変化をもたらす。セーラは夫が未成年だったころそのストリッパーと関係があったことを知り、真実を探ろうとする。しかし、二重苦でありながら家内外に厳然とした威厳を示す姑、50歳近くにもなって黙って従う夫、2人を含めたケリング一族の秘密が、セーラの前にたちはだかる。

 

 解説にある通り、シリアスなミステリーに仕上がっていて、同時に名家の見栄や体面を重んじる姿勢、カネがありながら吝嗇な姿が浮かび上がる。このシリーズ、面白いので引き続き読んでみます。