新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

消えたクラシック・ロールスロイス

 1988年発表の本書は、これまで創元推理文庫で7作を紹介したシャーロット・マクラウドの「セーラ&マックスもの」。8作目の本書以降は、扶桑社から邦訳が出版されている。美術品探偵マックス・ビターソンと結婚し、子供も生まれたケリング家の一員セーラは、相変わらず膨大な量の親戚、ケリング一族に悩まされている。富豪のくせに吝嗇なケリングの血は、代々親戚同士で婚姻して財産を外部に渡さないようにしている。セーラの最初の夫も、20歳年上の従兄弟だった。

 

 ボストンにはケリング家以外にも富豪がいて、今回セーラとマックスは高価なロースルロイスのコレクションを持つビリングスゲート家の当主ビルから「1927年型のニュー・ファントムが鍵のかかった車庫から盗まれた。探して欲しい」との依頼を受けた。書画骨董などの探索は得意な2人だが、車を扱うのは初めて。

 

 ケリング一族とも付き合いの深いビル夫婦の頼みに渋々応じた2人は、ビリングスゲート家のパーティに参加して容疑者を観察し始める。このパーティが、とてもアナクロな仮装パーティ。男も女も中世風もしくはルネサンス風の扮装をして、食べ・呑み・歌い・語り合うわけだ。

 

        

 

 ところがそのパーティの最中、再びロールスロイスが消えた。今度は名車の中の名車、シルバー・ゴーストだった。世界中に18台しか現存していないので、値段のつけようがないほどのもの。しかも、車庫を見張っていた使用人が殺されていた。彼も中世風の扮装をしていて、持っていたトートシュレーガー(モーニングスターのような武器)が無くなっていた。さらにセーラの伯母(のひとり)ボーディ・ケリングが行方不明になった。

 

 使用人は毒薬を詰めた麻酔銃で撃たれた後、木につるされたらしい。鍵のかかった車庫からロールスを持ち出したのは誰か、またどうやって?本格ミステリーのような建付けなのだが、「消えた鱈」事件で騒動を巻き起こしたジェフ伯父が再び登場、他の関係者もノー天気に自分勝手なことばかりする。

 

 例によってドタバタ騒ぎのうちに、事件は解決に向かって流れていく。密室車庫の謎もあっさりしたものだし、関係者を集めてセーラとマックスが犯人を名指しするシーンも派手ではない。

 

 このシリーズ、もう完全にユーモアミステリーになってしまいましたね。