1983年発表の本書は、シャーロット・マクラウドの「セーラ・ケリングもの」の第四作。前作「盗まれた御殿」の事件から2ヵ月、未亡人セーラと青年美術鑑定人マックスは結婚の意思を固め、新居を「海の見える別荘」を改築して充てることにした。ビーコン・ヒルの下宿屋に改装した邸宅の管理は、前作の事件で活躍した親戚ブルックスとシオニア夫妻(こちらも新婚)に任せ、2人はアイアソン埠頭の別荘に引っ越してきた。
この別荘は建物は古いが、35エーカー(東京ドームの約3倍)の敷地面積があり、農園や馬車小屋、ボート小屋まである。セーラが相続した時は邸宅同様2重抵当に入っていて、邸宅の返済を優先したためこちらの決着は付いていない。
しかしケリング一族の夏のバカンス場所でもあり、シーズンが近づく今、2人は新居の整備と共に放置してあった別荘の再生もしなくてはいけない。ところが到着早々、2人は玄関に見慣れぬビルバオの鏡があることに気づく。大理石に埋め込まれた大鏡で、美術品としての価値はかなりなもの。マックスは地元警察を呼んで、事件性を探ってもらうことにする。
そんな騒ぎの中、予定より早く到着したのはアピー伯母さんとその息子・孫たち。早速「ヨットクラブ」を運営する富豪ミフィ・ターゴインのパーティに招かれるなど、大忙しだ。ところがその夜、ミフィと同居していたアリス・ビークシットが、何者かに斧で惨殺されてしまう。期せずして、結婚を控えた2人はまた事件に関わることに。
実はケリング家、ターゴイン家、ビークシット家はいずれも地域の名家。婚姻関係もあって、複雑な人間模様がある。一方マックスの出身地は埠頭に近いエリアで、現地の人に知り合いも多いのだが、胡散臭く見られているのは彼が貧しいユダヤ人の家に生まれていたから。
「ボストンの上流階級には習慣はあるが礼儀はない」とも言われ、登場人物の多くはそのうちに入る。彼らとマックスの狭間でセーラは苦労するのだが、その根本は差別意識にあるようだ。セーラのは幼馴染の富豪のイケメンであるブラッドリーも言い寄ってきて、容疑がかけられたマックスは最大の窮地に陥る。
4作品読み通しましたが、最初の暗いイメージはセーラが自由を得るにしたがって徐々にユーモラスになっていきます。2人の新婚模様にも興味がありますから、次の作品も探しますよ。