新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

刑事たちが追った「鬼畜事件」

 今日12/16は、9年前の2012年に「ルーシー・ブラックマン事件」の判決(無期懲役)が東京高裁で下りた日である。2014年発表の本書は、この事件を追った警視庁捜査一課の刑事たちの実録を記したドキュメンタリーである。

 

 2000年7月、麻布署にやってきた英国人女性ルイーズと六本木外人クラブ「カサブランカ」の店長池田は、クラブで働きルイーズと同居中の英国人女性ルーシー・ブラックマンが失踪したと告げた。彼女たちは数ヵ月前に観光ビザで入国し、外国人女性を侍らせる高級クラブで働いていたという。2人とも21歳、CAあがりの長身の美女だ。クラブには多くの外国人女性がいて、札びらをきる男たちと嬌態を繰り広げていた。

 

 ルーシーは3日前、コーワと名乗るクラブの客とランチをするといって出かけて以降連絡が付かなくなった。日本語をろくに話せないし所持金も少ないルーシーが、長く一人でいられるはずはない。誘拐と直感した所轄は、捜査一課に協力を依頼する。

 

 筆者の高尾昌司氏は、ここから捜査一課の刑事たちを一人一人丁寧に描いてゆく。その警察官になる前の経緯から、本件の前後で関与した事件についても触れている。花形部署の刑事らしく、それらの事件は馴染み深いものばかり。

 

地下鉄サリン事件

・世田谷一家殺害事件

・和歌山毒入りカレー事件 等々

 

        f:id:nicky-akira:20210820122121j:plain

 

 刑事たちはルーシーの客だった40歳代の中背の男を容疑者と見て探し始めるが、「カサブランカ」や他の類似クラブのホステスたちから、

 

 「逗子の別荘に連れて行かれ、変な酒で気を失った。いたずらされたかもしれない」

 

 という複数の被害届を受け取る。その容疑者織原城二(金聖鐘)は、ホステス達への準強姦容疑で逮捕されるが、家宅捜索の結果、被害者を裸にして縛り付け鬼畜の行為に及ぶビデオが多数押収された。被害者は確認できただけでも外国人34人、日本人28人に及んだ。中には7年前劇症肝炎で死んだオーストラリア人女性の姿もあったが、ルーシーのビデオはなかった。

 

 織原こと金は在日韓国人二世の家に生まれ、莫大な遺産を相続、米国留学後慶應法学部を出ても遊興三昧していた。刑事たちはぬらりくらり言い逃れる織原に閉口しながらも、ルーシーの行方を捜す。

 

 なかなか迫真のドキュメンタリーでした。事件は国際的なもので、ブレア首相が来日時に森首相に捜査強化を求めたとのくだりも興味深かったです。