新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

死者の圧倒的な存在感

 先月までマーガレット・マロンの「デボラ・ノット」ものを4作紹介してきた。舞台となったのは南部の東海岸ノースカロライナ州で、女性判事デボラの活躍を描くと同時に土地の因習もヴィヴィッドに書かれていた諸作である。2006年発表の本書も、ノースカロライナ州法曹界を舞台にしたもの。主人公の「わたし」ことワーク・ピケンズ弁護士は35歳、妻バーバラとの間に子供はなく、幼馴染の年上の不倫相手ヴァネッサとの関係が続いている。

 

 ワークはさほど優れた弁護士でもなく、金儲けも上手くない。しかし父親のエズラノースカロライナ一番の(金儲けのうまい)弁護士である。1年半前、妹のジーンがLGBTの恋人のところに走ろうとしたのをエズラが止めて口論になり、間に入った母親が階段から落ちて死んでしまった。その直後、今度はエズラが行方不明になる。

 

 ワーク夫婦は両親がいなくなった家に住み続けたが、ジーンは恋人の元に行ってしまった。ワークは日々弁護士業を続けていたのだが、ある日エズラの死体が発見される。頭部を2発撃たれていた。地方検事ダグラスの急報で現地に駆け付けたワークは、父親の死に感慨を覚える。何しろ物心ついたころからずっと抑圧され、弁護士になるのも、バーバラと結婚するのも強制されてきた。その「キング」が死んだのだ。

 

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 冒頭死体で登場するエズラが、実は本書の主人公。南部かたぎの頑固な父親で「女には教育も要らない、カネももたせない」と言い放つ。貧しい生まれのためカネには貪欲で、儲かる訴訟に全力を尽くす一方投資にも積極的だ。父親の死体が見つかって2日後、ワークは遺言状の内容を知らされ仰天する。

 

・600万ドルほどと思っていた総額が、4,000万ドルを超えている。

・ワークには1,500万ドルが遺されるが、60歳まで一流の弁護士でいないと貰えない。

・他の資産は「エズラ・ピケンズ財団」に贈られ、ジーンには1ドルも渡らない。

 

 ワークはひょっとしたらジーンが殺したのではと疑い、偽装工作をする。それが警察にバレて自分が容疑者になってしまう。本書でデビューした作者ジョン・ハートも、ノースカロライナ州の弁護士。警察の捜査や拘置所の様子、法廷のやり取りなどはリアリティがある。それ以上に死んでいるはずのエズラの存在感がすごい。

 

 力量ある作家ですが、あまりにも長すぎ(600ページ)ます。通して読むのに疲れてしまって。