新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

シャム猫<ココ>のデビュー作

 1966年、本書によって「シャム猫ココシリーズ」が始まる。作者のリリアン・J・ブラウンは、デトロイトの新聞社に30年務めた記者。マンションの10階から飼い猫が突き落されて殺されたのをきっかけに、EQMMで作家デビューを果たす。本格的な長編第一作として執筆したのが本書。作者のネコ好きは相当なもので、ついに探偵役をネコが務める物語を編み出してしまった。

 

 地方都市(デトロイトかな?)の新聞社<フラックス>に就職を求めてきたのは、かつてヴェトナム従軍記者として鳴らし「新聞社連盟優秀賞」を獲ったこともあるベテラン記者クィララン。安ホテル暮らしで食い詰めていたようだ。運よく採用されたのだが、仕事は全く知見のない美術特集部門。最初の仕事は、若き天才画家ハラペイのインタビューだった。

 

 実は<フラックス>お抱えの美術評論家マウントクレメンズ三世は、辛口を通り越して凶悪な批評文を書く。ハラペイとの仲は最悪で、他の記者はインタビューもしたがらない。新顔のクィラランは業界の人々に紹介されるが、すぐに嫉妬・中傷・欲望が渦巻く沼のような世界だと気づく。

 

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 気難しいことで知られるマウントクレメンズに、なぜかクィラランは気に入られ、彼の豪勢な邸宅の1室を安く貸してもらえることになる。しかし時々旅をする家主は、クィラランを体のいい留守番役にしようとしたようだ。留守中の主な仕事はシャム猫<ココ>の世話。高級テンダーロイン肉を調理したものや特殊なパイばかり食べる気難しい猫なのだが、クィラランにはなついてくる。

 

 そんな中、マウントクレメンズが唯一褒めるギャラリーの経営者が刺殺されるという事件が起きる。そのギャラリーには高名な作家の絵の半分が残されていて、もう半分を手に入れ修復したら途方もない値が付くと思われた。行きがかり上、探偵役を務めることになったクィラランだが、鋭敏で予知能力もある<ココ>に手がかりを教えてもらうことで真相に迫る。<ココ>は文字を読むことすらでき、鳴き声や動作でクィラランを導くのだ。

 

 ややもすると荒唐無稽(SFとは言えないが)な物語になりそうな展開だが、そこは軽い社会派ミステリーに仕上がっている。作者が長年籍を置いた新聞社の内実(記者の生態)がヴィヴィッドだ。ハヤカワミステリが多数出しているこのシリーズ、これからも探してみることにします。