新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

伝説の不可能犯罪ミステリー

 本書は、かつて探偵小説ベスト10を選べば、必ず入っていた伝説の不可能犯罪ミステリーである。作者は、以前「オペラ座の怪人」を紹介した新聞記者出身の作家ガストン・ルルー。1907年の発表で、それまであった「密室もの」が完全な密室ではなかったことを指摘し、読者を驚かせたものだ。

 

 高名な科学者スタンガースン博士は、グランディエ城に娘マチルドと住み、実験にいそしんでいた。マチルドは35歳となったが美しさは変わらず、ダルザック教授と婚約がまとまっている。そんな彼女が離れの実験室の奥の間で、悲鳴を上げた。銃声も聞こえ、使用人や客人たちが駆け付けるが、「黄色い部屋」には血まみれで瀕死の重傷を負ったマチルドが倒れているだけ。

 

 扉は一つしかなく厳重な閂と鍵がかかり、救出には扉を破る必要があった。窓には鉄格子がはまり、鍵もかけられていた。秘密の通路など抜け道がないことも証明され、捜査は行き詰る。

 

        

 

 パリ警察からは名探偵の呼び声が高いラルサンが派遣され、<エポック紙>所属の青年記者ルールタビーユも現地に向かう。ルールタビーユのワトソン役を務める弁護士に、彼は「犯人が来なくてはいけないような状況を作った」とうそぶく。しかし現れた不審者は、邸内で挟み撃ちにしようとした彼とラルサンの前から、忽然と消えた。

 

 ルールタビーユは、容疑者にされたダルザック教授に「司祭館の楽しさはいささかも薄れず・・・」と謎めいた言葉をかけ、教授を動揺させる。その後、彼とラルサンは事件解決を賭けての戦いを繰り広げる。50歳過ぎのベテラン探偵に、18歳の青年新聞記者が挑む。

 

 古典中の古典で、ミステリーマニアでなくても題名は聞いたことがある名作である。50年以上前に読んでいて、当時近い年代だった青年探偵に喝采を送ったことを思い出す。やや冗長にも思えますが、見事なトリックで、手がかりもフェアでした。懐かしかったです。