新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

汚れた街のアル中探偵

 本書は昨年末「死者との誓い」を紹介したローレンス・ブロックの「マット・スカダーもの」。作者は1993年の「死者・・・」と1982年発表の本書で、PWA(米国私立探偵作家クラブ)賞を受賞している。「死者・・・」ではかつてアル中だったと回想するマットは、元娼婦のエレインといい大人の関係になっていた。しかし本書では、まだアル中を克服できず、汚れた街ニューヨークで苦悩の日々を送っている。

 

 AA(アル中患者の自主治療協会)の会合にも頻繁に顔を出すのだが、積極的に体験などを発言することはない。8日禁酒したと顔見知りに話しても「それはすごい」とみんなが異口同音に褒めてくれることに、違和感を覚えている。9日目についに禁を破り、バーボンをあおって人事不省になって病院に担ぎ込まれたりする。

 

 禁酒して迎えた朝も、新聞(ニューヨークポスト?)を開くと、陰惨な事件ばかりが詰め込まれている。麻薬患者や街娼、浮浪者等が惨殺されたり、子供が銃を乱射・銀行強盗を働いたりする。人種問題・マフィア・格差と貧困などの問題が山積みの街、ニューヨークの人口は800万人。題名の意味は、街の人々の「生きざま」ではなく、「死にざま」を作者が描いているということかもしれない。

 

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 いつもの呑み屋にいたマットのもとに、25歳にも満たない売春婦キムがやってきて「1,000ドルでヒモのチャンスを縁切りできるようにして」と依頼する。なかなか居所のつかめないチャンスだが、会ってみるとクレバーな黒人青年で、キムは自由だという。しかしその直後、キムはアパートでナタのようなもので滅多斬りにされて死んでしまった。容疑はチャンスにかかるが彼にはアリバイがあり、逆に彼はマットに真犯人を探してくれと依頼する。

 

 容姿が売りの娘たちが続々街に流れて来て、みんな堕ちてゆく。キムの過去や彼女の仲間たちを調べるうち、汚れた街の姿が浮き彫りになる。そんな女たちを護り、独自のポリシーを持つチャンスと、マットは親密さを増していく。マット自身にも凶器が向けられる中、彼が掴んだ真相は?

 

 安ホテル暮らしで3食外食しているマットの日常から、街の人達が何を食べ呑んでいるかが良く分かる。特に僕が好きなバーボンが次々に出てきて、マットを苦しめる(僕を微笑ませる)。作者を「ハードボイルドの詩人」と評したのは、間違っていなかったようです。