新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

マット・コブの育った町

 本書はW・L・デアンドリアの第五作、TV局<ネットワーク>のトラブル担当マット・コブが登場するシリーズとしては第三作にあたる。マットは同社で一番若い重役、これまで2つの事件でも、会社の危機を救ってきた。しかしこれまではTV業界の裏話はたくさんあったものの、マット自身の過去はほとんど紹介されていない。

 

 本書ではマットが育った町ニューヨーク州のシワンカで、彼自身の付き合い深い人たちの事件に巻き込まれる。これまでは大学の専攻は「英語」でバスケットボール選手だったことくらいしかわからなかったマットだが、

 

・ホイットン大学にはバスケットボールの奨学生で入った。

・一時期討論部にも籍を置き、赤毛の女の子をパートナーにしていた。

・友人に地元企業ホイットンコミュニケーションの社長令嬢らがいる。

 

 とある。

 

 ニューヨーク州といえば僕はマンハッタンしか知らないが、西は五大湖に至る広大な地域がある。そこは米国でも田舎といってよく、移民も多くゆったりした時間が流れている。<ネットワーク>はこのところ新興のTV局<コムキャブ>に地域ケーブルTVのシェアを奪われていて、シワンカもその激戦地域だ。ケーブル局営業部門に依頼されたマットは、上記社長令嬢の結婚式が近いこともあってシワンカにやってきた。

 

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 令嬢デビイは美女だが、何度も婚約を繰り返すやや不安定な娘。早くに母親を事故で亡くし、その事故で妹ブレンダは右脚を失った。今は豪邸に父親と3人で暮らしている。マットの親友でもある空手男ダンとは長く付き合ったのだが、結局美男子のグラントと婚約して結婚式は目前だ。しかし二人は激しい喧嘩をするなど仲が良くなく、デビイが結婚式の付き添い人にダンを選んだことで一層険悪になる。

 

 デビイの家の夕食に招かれたマットは、ブレンダから事情を聴いて危惧する。ダンも二人の結婚には猛反対だ。そしてついにデビイが咽喉を殴打されて殺され、容疑が空手の達人ダンにかかる事態になる。マットは大学時代のパートナーで今は近郊一番の刑事弁護士となったイヴの助けを借りて事件解決に挑む。

 

 エラリー・クイーン直系を思わせる、論理推理のパズラーである作者の本領発揮の一冊でした。今回は、作者の張った大きな伏線2本のうちの1本は分かりました。どちらが分かっても真犯人は言い当てられます。今夜はいいお酒が飲めそうですよ。