新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

シンギュラリティへの有識者見解

 これまでいくつもの書で、AIの将来や人類への脅威を論じたものを紹介してきた。2018年発表の本書は、日経新聞社が1年かけて国内外の多くの有識者にインタビューし、シンギュラリティ(AIが人間の能力を超えたものを持つこと)の時代に向けての意見や提言をまとめたもの。特定の主張というより、AIの将来に向けた論点整理と考えるべきかもしれない。

 

 本書の構成とは別に、語られるエピソードの中で僕が印象に残ったものを順番に紹介したい。一番インパクトがあったのはロシアの例。モスクワのベンチャー「ニューロボティクス」は、AI搭載のアンドロイドを開発しているのだが、それは19世紀の国民的詩人プーシキンを模したもの。プーシキンのように考え、話し、行動するアンドロイドだ。この開発を受けてモスクワっ子の間では、

 

プーチンが自分を模したアンドロイドを造り、永遠に統治しようとしている」

 

 との噂も流れているとか。うーん、まさに秦の始皇帝も望んだ「永遠の命」というわけだ。そんな生臭い話ではなく、すでに実用化もしくはトライアルの最終段階にあるいくつもの事例が紹介されている。

 

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・楽曲をAIで分析してヒットするか否かを占う

・1万人の声を受けてAIが作ったビールのレシピ

・ホームレスのインタビューを通じてAIはHIV感染者を割り出す

 

 など、用途は自動運転や製造現場自動化などを越えて広がっている。当然兵器転用などのリスクも孕んでいて、ある歴史学者は「火薬の発明、核兵器の発明に次ぐ第三の兵器革命になる」と警告する。そんな背景もあって、特に欧州ではAIの規制を求める声が多いが、ノーベル賞学者の利根川博士は、AIのリスクについて「それはAIではなく、使う人間の側の問題。いくら規制をしても破られるのは歴史が証明している」という。

 

 面白かったのはAIの消費電力のこと。2017年「アルファ碁」はTOP棋士を破ったのだが、その時の消費電力は25万ワット。人間の脳の消費カロリー(21ワット)の12,000倍かかるという。なるほど、それならまだ、特定分野以外は人間を使った方が安いわけだ。ちょっと情けないけど・・・。

 

 加えて意図的に間違ったデータを喰わせてAIの発育を阻害し、成長を歪めることもあるという。まあこれは「サイバー攻撃」の一種なので、そういう対処を必要とするのですがね。この議論、まだまだ続きそうですね。