新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ディダクションが出来るAI

 世はまさにAIブーム、囲碁将棋の世界では「AI以前・以後」が公然と語られるし、ゴールドマン・サックスのトレーダーが600⇒2人になってしまったのもAIトレーダーの導入によってだ。巷間には「AIであなたの仕事が奪われる」的な書が溢れているし、欧州委員会は「ハイリスクAIの利用制限・禁止」を提唱する始末。先日のNHKスペシャルも「AI兵器により戦争のルールが変わる」と警鐘を鳴らしている。

 

 ただこれらの報道・論説は一面だけを捉えたものが多く、本当にAIが意志を持って人間を追い払う「ターミネーター」に描かれた世界が来るかはまだ分からない。そういう意味で、僕が(入門書としては)一番フェアなものだと思ったのが本書。数学者で起業家でもある田中潤氏にデータサイエンティストの松本健太郎氏がインタビューして、AIの過去・現在・未来を、学術と言うよりはビジネス応用の面から解説したものだ。

 

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 第一次AIブームは1960年ごろ、すぐに答えを出してくれるコンピュータをAIと呼んだ。まだデータベース程度のもの。第二次は1980年代で、ルールベースで簡単な「判断」ができるようになった。しかしルールの書き換えに工数がかかるので頭打ちになる。2000年代に「機械学習」が登場してルール更新が楽になって第三次ブームに。学習がより広範にできるような「ディープラーニング」で、特化型(例:囲碁・将棋)AIとしてブレイクした。

 

 しかし今でも、AIは「意味」が分かっているわけではない。多くのデータからAかBかの判断をすることはできるのだが、「○○だからAが有利と判断した」という説明はできない。これをディダクション(演繹法)といって、ここまで来るには2030年までかかるだろうと筆者は言う。

 

 よく欧州委員会の人が「AIの説明責任」というのだが、僕は「AIはブラックボックス、なぜそう判断したかは言えない」と反論しているのがこの点だ。ディダクションまでできるようになれば、欧州人も納得してくれるかもしれない。

 

 加えてAIが人間を越えるシンギュラリティだが、これもまず意味が分かってディダクションができて、それがもっと広範な分野を横通しに見ることができるようななって初めて可能だとある。筆者らの推定では2145年頃かと。

 

 まず我々は(欧州など)市民の理解を得るために、ディダクションできるAIを目指すべきということですね。