新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

私設鉄道でのパーティで事件が

 1984年発表の本書は、シャーロット・マクラウドの「セーラ&マックスもの」の第五作。前作「ビルバオの鏡」で新婚早々美術品盗難事件を解決した2人は、今度は最初のクリスマスを前に伯父ジェムを巡る事件に巻き込まれる。口うるさいことこの上ないケリング家のわがまま爺さんジェムは、ボストン名士の会<浮かれ鱈の会>の会長職である<いと高き鱈頭>に就任した。

 

 WASPの名家から一人づつしか加入できない格式高い会で、大叔父が死ぬまでジェムは入会もさせてもらえなかった。還暦を過ぎて入会できたのだが、若造扱い。確かに中心となる会員が「同志」と呼び合うのは80歳超が多い。ジェム伯父も20年下積みを続け、今回前任の食品業者トムが<頭>を降りてくれて、その地位につけた。

 

 2~3kgもある純銀の鱈の像を付けた大鎖を首にかけ、パーティを仕切るのが<頭>の仕事。名士ばかりの会のはずだが、実は乱痴気騒ぎである。最初のパーティでジェム伯父は純銀の鱈を無くすという失態を演じてしまう。さらに自宅の階段から転げ落ち、腰骨を折って入院する羽目に。でもセーラは「昼夜騒がれ、罵られる看護婦に同情するわ」とつれない。

 

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 血のつながらないマックスの方が伯父を気遣い、次のパーティには代理出席することになる。前の<頭>トムの家は大富豪、弟のワウターともども蒸気機関車が大好きで、鉄道を敷き機関車・石炭車・車掌車・客車・食堂車まで揃え移動パーティ会場を作っていた。マックスも加わったパーティでソムリエがシャンパンを注ぐのだが、その首には例の大鎖があった。オードブルとしてキャビアが提供されたが、苦手のマックスだけはそれを食べなかった。

 

 列車が急停車し、機関車に様子を見に行ったマックスは、のどを潰されて死んでいるワウターを発見する。医師や警察を呼んでいるうちにパーティ客が苦しみ始めた。翌朝の新聞は「社交界の華、毒入りキャビアに続々倒れる。豪華列車の中で、死者3名、重体15名」と伝えた。

 

 ミステリーには中段のサスペンスが必要と言われるが、本書は「中段のブラックユーモア」が秀逸。自己中でどうしようもない「同志」ばかりなのだが、憎めないところもある。今回は美術鑑定家転じて私立探偵となったマックスが「同志」たちを相手に大活躍する。

 

 絶滅危惧種となった、WASP富裕層への皮肉が一杯で笑えます。ちょっとセーラの影が薄いのがきがかりですが。