新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

環境&福祉問題の解決策だったが

 1988年発表の本書は、シャーロット・マクラウドの「セーラ&マックスもの」の第7作。ついに子供が授かったセーラとマックスの夫妻だが、相変わらずケリング一族はお騒がせを続けている。今回の中心になるのは第2作「下宿人が死んでいく」で出会って結婚したアドルファス(ドルフ)・ケリングと妻のメアリ。セーラのあまたある従兄弟の中でも問題児のひとりだ。

 

 ドルフには、フレッド伯父から受け継いだ遺産があった。キャッシュの方はさほどでもないが、豪邸やその中にある高価な調度品の数々である。「下宿人・・・」で紹介されたように、メアリは高齢市民リサイクルセンター(SCRC)の構想を持っていた。貧しい高齢者に街中の空き瓶などを集めてもらい、それを買い取る形で彼らに生活費を補助し、食事なども出すという施設だ。環境問題と貧困高齢者問題を、同時に解決しようという試み。

 

 事業はそれなりに回っていて、ドルフ夫妻はSCRCを拡大して貧困高齢者を収容する下宿屋も作ろうとしていた。広大な空き倉庫があったので、そこを改装するつもり。その資金に充てようと、ドルフは「美術品探偵」であるマックスに協力を依頼して遺産の調度品の競売会を企画した。

 

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 しかし競売会の準備中に、SCRC会員の一人が路上で殴り殺されるという事件が発生。SCRCの回収袋から微量のヘロインが検出され、被害者が4万ドル以上の預金を持っていたことが分かる。しかも被害者は遺言書に「全額をSCRCに寄付する」と指定していた。麻薬取引に関わっているか、もしくは遺産ねらいかと、ドルフ夫妻に疑いの目が注ぐようになり、臨月を迎えたセーラとマックスは事件解決に奔走する羽目になる。

 

 米国全体としては人口は増えているのだが、それは移民のおかげ。白人に限っていうと他の先進国同様少子化・高齢化が著しい。白人が多い街ボストンは、そんな悩みを抱えている。富裕層であるケリング一族は、暇なこともあって社会問題に敏感だ。メアリたちの行動は褒められるべきものだが、誰かがSCRCというスキームを使って悪事を働いているらしい。例によって困った伯父・伯母たちの騒ぎをひとつひとつ鎮めながら、マックスは競売会を成功させるのだが・・・。

 

 本書で創元推理文庫のこのシリーズは終わりです。あと数冊扶桑社から出ているようですが、セーラの成長物語もこの辺りで十分かもしれません。