新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

行動経済学の入門書

 「競争と言うと、とかく日本では否定的に捉えられるが、自分の強みを見つけ社会を活性化させる機会」というのが、裏表紙の言葉。新自由主義の本かなと思って買ってきたのだが、そうではなく「行動経済学」の入門書だった。

 

 著者の大竹文雄氏は大阪大学の教授、労働&行動経済学が専門だとある。本書の発表は2017年で、今ほど富の再配分を求める声が多かったわけではないが、ピケティ教授の「21世紀の資本」は既刊で格差問題解決と新自由主義排斥の風潮は出ていたころだ。

 

 冒頭コンサートチケットの高額転売問題が取り上げられていて、「本当に欲しい人に届かない」とアーチスト側が改善を訴え、転売業者が「自由な市場を守る資本主義だ」と反論している。犯罪は別として、この論争は転売業者側の利があると多くの経済学者はいうだろう。希望者が座席数を上回るなら、チケットを抽選にするより需要と供給が釣り合うところまで値上げすればいいというのが経済学。

 

 企業から個人まで、競争することで益を得られるのは競争した当事者ではなく、消費者だとある。競争が全くなければ、結局損をするのは消費者。国営企業の非効率さは、やがて国民にハネ返るというわけだ。

 

        f:id:nicky-akira:20220314202653j:plain

 

 本書は世界中の行動経済学の実験結果を引用していて、例えば人間は損をしたくない本能があって、パーパットの時よりバーディパットの方がリラックスしているとの研究結果がある。タイガー・ウッズ級のプロでもその傾向がある。成績という意味ではどのパットでも1打なのだが、人間はそう冷静にはなれないらしい。

 

 個人主義と生産性の関係については、個人主義度の高い国(米国91、豪州89)ほど生産性も高いとある。ちなみに日本は個人主義度45、インド(48)より低くロシア(38)を上回るのが精々である。

 

 「平等教育」だが、子供に成績に順位を付けず競争より協力を重視した教育をすると、皮肉なことに協力を拒否しやられたらやり返す大人になるという研究結果もある。日本の格差については、TOP1%目の年収は1,260万円、米国の1%目は35万ドルほどだから、さほどひどくはないとある。

 

 経済学は理系か文系かの議論もあった。経済学者は数字に強い必要があるが、それ以上に社会の仕組みや心理学に長けていないといけない。面白い学問だとは思いましたが、もう少し政策寄りの例があると分かりやすかったかも。