新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

<子ども家庭庁>が参照すべき本

 先月、大竹文雄教授の「競争社会の歩き方」を紹介した。僕にとって初耳の学問、行動経済学の入門書だった。2019年発表の本書は、その大竹教授が推薦する東大経済学部政策評価研究教育センター長山口慎太郎教授の著作。行動経済学を家庭(結婚・出産・子育て・離婚)に当てはめて、データの基づいて「政策」を論じたものだ。ある種の「EBPM」実践書で、<子ども家庭庁>は是非本書の提言を実行して欲しいと思う。

 

 国の国力は人口に大きく左右されるが、何でもいいから人が増えればいいと言うものではない。虚弱だったり非行に走ったり、学力が上がらない子供ばかりでは国力が高いとは言えない。著者は、

 

・低体重で産まれた子供は、健康面でも知能指数でも大人になってからの収入も低い

・日本は(医療が行き届いているせいもあるが)世界で2番目に低体重出産が多い国

・母親が妊娠中フルタイムで働いていると、低体重出産の公算が上がる

 

 と述べている。

 

        

 

 さらに、幼児教育について、

 

・幼児教育の良否は、子供の知能指数ばかりでなく社会的精神能力形成に関わる

・母親が育てたか、保育士が育てたかについては、差異はない

 

 としている。米国で貧困家庭の子供に手厚い幼児教育をした「ペリー就学前プロジェクト」の結果として、高校卒業率を引き上げ、就業確率・年収を増やし、生活保護受給と警察に逮捕される割合を減らしたとある。また、言語能力が低く問題行動を起こしがちな子供の割合は、母親が大卒か高卒未満かで大きな差が出るが、保育園を利用させることで差を縮めたり無くしたりできる項目が多いと指摘する。

 

 一方、母親や父親の「育休」については、最長3年とれる国もあるのだが、2年目からの子供への効果は大きくなく、返って母親のキャリアにわずかながらマイナスになるという。それらを通じての提言は、

 

・出産前から母親の労働を軽減する

・育休は1年でいいが、多くの人が取れるようにする

・保育園の充実は無償化よりも、待機児童ゼロが有効

 

 というものである。このほか、結婚のための出会い(韓国のマッチングサイトはすごいね!)や離婚の実態などが、データとして示されている。非常に興味深い研究で、このエビデンスを持って<子ども家庭庁>は政策決定をして欲しいですし、山口教授にはさらなる研究の深化をお願いしたいです。